0383:インフェルノ
――死にてえのは、どいつだ?
すでに空は灰色雲に覆われ始めている。冷たい風に揺れる枝葉が、これから訪れるであろう闘いの激しさを予感させていた…。
【インフェルノ//〜友達≠仲間〜】
「…ご、悟空君?言ってる意味がよく分からないんだけど…?」
目前に立つ悟空から放たれる不穏なオーラ。それは非戦闘員とも言える一般人であるはずの大空翼でさえも、はっきりとした“悪意”として凍てつくような寒気を感じていた。
「………」
張り詰める空気。誰も言葉を続ける事が出来ない。
不敵な笑みを浮かべる悟空……困惑に眉を潜める翼……最大の警戒で悟空たちを見つめ返すブチャラティ……悟空の斜め後ろで立ち尽くす無表情の友情マン……
そして――
「……悟空」
――ルフィ。
ついに再会した二人。
悟空を見据えるその瞳は、微かに赤い熱を帯びている。
「ん?地球人風情がこのオレを呼び捨てか?クク…」
「………」
もはや、ルフィの知る孫悟空ではない。
まるで道端にひれ伏す物請いを見下すかのような、冷酷な嘲笑。
「……悟空」
「……ヤツはもういない。オレは『カカロット』だ」
一歩前に出るルフィ。
麦わら帽子を深く被り直し、コキリと指の骨を鳴らす。
「もういない?何を言ってるんだ悟空君!もしかして…また前の時みたいにパニックになってしまってるのかい!?」
以前承太郎と翼の二人が悟空と遭遇した際、確かに彼は酷く混乱していた。
問答無用で襲いかかってきたかと思えば、一転して爽やかで人畜無害な青年に変わり、そしてまた狂人へと変貌したかのように絶叫しながら一人逃げ去った。
「ツバサ、“前の時”だと?」
「あ……そうだ!悟空君!あれからずっと君に聞こうと思ってた事があるんだ!」
ブチャラティに返事する間もなくある事をとっさに思い出した翼は、勢いよく前に出てルフィの隣に立つ。
「聞きたい事?なんだ?命ごいなら却下だぞ?」
「悟空君がそんなパニック状態になってしまったのは、もしかしたら『日向君』が原因じゃないのかい!?」
「……ヒュウガ?」
あの時……悟空が再び変貌してしまった時流れていた『日向小次郎』の死を伝える放送。翼はどうしてもその事があれからずっと気になっていた。
「もしかしたら、僕と同じようなユニフォームを着てたかもしれない。心当たりないかい?」
「………」
日向小次郎。
悟空がこの舞台で最初に殺した二人の『地球人』の内の一人。
悟空に日向の名の記憶は無い。彼が覚えているのは『桜木花道』の名のみ。あの時日向は名乗っていないからである。
「………ああ、そういや確か…そんなヤツもいたな。安心しな……苦しむ間もなく一瞬で『殺して』やったからな」
「…………え?」
翼の表情が固まる。
――殺してやったからな――
確かに悟空はそう言った。
……殺した?誰が?……違う……そんなわけ……
「オレは弱っちいやつをいたぶる趣味はねぇからな。つえーやつなら楽しいだろうが、あんなザコならサクッと殺すに限る」
「………」
「……悟空」
そう。その時を、確かに見ていた。
仲間である悟空が、大切な仲間である孫悟空が、二人の罪無き者を残酷に殺したあの時。
ルフィは、彼を止める事が出来なかった。
仲間を…止められなかった。
「何回言わせりゃ分かるんだ?オレは悟空なんて名前じゃねえ……」
「………悟空」
「……ん?そういやお前……確かあん時にいた……」
ふと悟空の表情が変わる。
確か、この麦わらの男には見覚えがある。記憶の奥底からこの男の事がうっすらと浮かび上がってくる。
――そうだ……この耳障りな声、確かに聞き覚えが……
『悟空ぅ〜!』
『悟空っ!?』
『悟空…』
『待てよ悟空ーっ』
『大丈夫か悟空!』
「悟空……!」
――そうだ、思い出した。
オレがまだ孫悟空だった頃の、親友。そいつに似た声を持っている……麦わら帽子の男、ルフィだ。
「……思い出したぞ。ルフィじゃねえか。久しぶりだな?」
「え!?カ、カカロット君!?」
ルフィに対して急に親しげな声を掛けた悟空に対し、驚きの声を返す友情マン。
このルフィという敵とカカロットが仲の良い知り合いであった場合――
もしかしたら戦闘が回避され『強敵をカカロットに根こそぎ消してもらい、最後に彼を毒殺して優勝する』という計画が根本から台無しになってしまうかもしれないという危機を感じ、『マズい』と声を荒げてしまったのだ。
そのルフィ、一転して無口。
帽子のふちで隠された表情からは、何の反応も伺えない。
「体がゴムみてーに伸びる変なお前が弱っちい地球人なわけ無いもんな。どこの星出身だ?」
「………」
返事は無い。
ルフィは相変わらず無感情に、無表情に、悟空の前にじっと立ち尽くす。
「……ゴクウ、と言ったな?お前のターゲットは『地球人』に限る、というのか「ザコ地球人は黙ってろよ」
「……!」
ルフィたちの後方に立つブチャラティへ目を合わせることもなく、悟空は彼の言葉をピシャリと遮る。それはルフィに対してとは全く違う、低く冷たい響きの言葉であった。
(……やはり『地球人』を敵と見なしているのか。ならばヤツは、間違いなく敵。しかも…ただ者ではない予感がする……)
ブチャラティは言葉を飲んだまま考える。
――向こうは二人。行動を共にしているという事は、おそらくあのもう一人のスタンドのような姿を持つ奴も強い可能性が高い。対してこちらは……戦闘力はおそらく皆無のツバサ、そして連戦続きでダメージの深い自分。
実質こちらはあのモンキー・D・ルフィしかまともに戦えまい。
そんな実質『二対一』という絶望的なこの状況に気付く。
「……なあルフィ、おめーはどうすんだ?お前なら友情マンみたいに『友達』になってやってもいいぜ?」
「………」
「……お前は地球人じゃない。オレたちの『仲間』さ」
仲間。悟空の口から出たその言葉に、初めてルフィはピクリと肩を動かし反応を見せる。
「そうだ。来いよ一緒に。なんならこの気に食わないゲームも一緒にぶっ壊そうぜ?」
「………の…」
「ま、地球人を一人残らず消してからだけどな………ん?」
悟空の笑顔が止まる。目の前のルフィに異変を感じ、不審な気配を敏感に察知。
「……!?」
見ると、ルフィにあるはずの両腕がどこにも無い。
その奇妙な姿。そして前傾姿勢。これは…!
「……“回転弾”(ライフル)ッッ!!!」
ズガッッ!!!
ルフィの遥か後方まで伸ばされ何重にもねじられていたゴムの左手が、反動により目にも止まらぬミサイルのような速さで悟空に襲いかかる!
顔面にクリーンヒットしたその凄まじい衝撃は辺りに反響し、悟空の体は見事に宙を舞い――
「…なッ!?」
だがブチャラティは見た。
その拳は寸前で止まっていた。
右の手のひらでルフィの拳を軽々と受け止め、僅かにのけぞらせた上半身を前に戻し…ニヤリと冷たい笑みを再び浮かべる。
「そうか……これがおめぇの答えか…!」
今の一撃に全く動揺を見せる事もなく、受け止めていたルフィの拳を横に払う。
しかしその払った拳は悟空の肩を掴み――
「“鐘”(かね)ェエッッ!!!」
「なにッ!?」
肩を掴んで伸びた腕を一気に縮ませ、悟空の顔面目がけてロケットのような音速にも及ぶかの勢いで頭突きを仕掛ける!
再び大きな激突音を響かせるが、それも悟空は右腕の横っ面でで瞬時にガード。
「“銃弾”(ブレッド)オッッ!!!」
後ろに残していた伸びきった右腕を引き戻し、銃弾を遥かにしのぐほどの重い一撃を至近距離から悟空の腹部目がけて撃ち放つ!
「無駄だッ!!」
しかしそれさえも悟空は左手でいとも容易く掴んで受け止めてしまう。
回転弾(ライフル)、鐘(かね)、銃弾(ブレッド)の三連撃も悟空には全く通用せず。
「……あのDIOってやつに手も足も出なかったお前程度が、オレに敵うはず無いだろ?」
至近距離で対峙する顔と顔。
悟空は汗一つかかない余裕の笑み。一方のルフィは…
「……なんでかな……」
「ん?」
ルフィは怒るでもなく、悲しむでもなく、焦るでもなく…
ただ、静かな瞳で悟空を見つめていた。
「……確かにあの変なオッサンには負けちまったけど……」
「悟空はその変なオッサンに勝ったけど……」
「今の悟空には、さっぱり負ける気がしねェ」
ルフィが悟空を見るその静かな瞳の奥には、様々な者たちの姿が映っていた。
――人の言葉が話せなくとも、誰よりも“仲間”を大切にする心は自然と伝わってきたエテ吉。
――最後まで“仲間”の身を案じて死んでいったバッファローマン。
――“仲間”のため、その身を投げ出してまで敵を倒そうとしたイヴ。
その他にもまだまだ沢山いる、かけがえの無い大切な仲間たちの立派な姿。
「目ぇ覚まさせてやるよ、悟空…!」
「……上等だ……ウリャアアアッ!!」
「うわあッ!?」
ルフィのその言葉に口端を小さく吊り上げ、腰を落としてその体を両手で掴んだかと思った瞬間、力の限りの勢いで空へとルフィを放り投げる悟空。ルフィの体は遥か遠くの空へと粒になっていき…
「力の差ってやつを思い知らせてやるぜルフィ!ハアッ!!」
舞空術で自らも舞い上がり、そのルフィを追って飛んでいく。
「な…ちょ!カカロット君ッ!!?」
友情マンの驚く声にも見向きもせず、悟空はその場から去っていった。
「………悟空君を……追わなきゃ」
「…ツバサ?」
それまで今までの流れにも呆然と立ち尽くすだけであった翼が、まるで糸の切れた操り人形のようなおぼつかない足取りで悟空たちの飛んでいった方角に向けて足を踏み出す。
「……あんな嘘…付いちゃった理由……悟空君に…聞きに行かなきゃ…!」
「待て!ツバサ!」
日向を殺した。悟空のその言葉は翼の心に重くのしかかっていた。
「………そうはさせない」
その翼の前を遮る――友情マンのその体。
(仕方ない。悟空君のワガママ勝手ぶりはまあ…大体計算の内だ。ならば僕も自分の仕事をするとしよう。…見たところ、何の力も無さそうなひ弱な青年と…片腕も無い、ダメージの深そうな半死の男。彼ら程度なら僕でも簡単に…)
「…やはりお前も、敵という訳だな」
「敵?……違うよ。君たちも、僕にとっては“友達”さ!友達なら…僕のために、友達のために…命を投げ出す事も仕方ないだろう?」
にこやかに、爽やかに。友情マンはブチャラティと翼に語りかける。
その胸に掲げた“友情”の二文字が、彼らの前に立ちはだかる。
【インフェルノ//〜二重奏(デュオ)〜】
ポツポツと、しずくが肩に落ちる。
空を行く悟空の体が徐々に湿り気を帯びてゆく。
「……邪魔が入らねえようにって思ったけど、さすがにちと飛ばしすぎちまったかな……」
飛んでいくルフィの姿がようやく肉眼で捉えられる。場所は埼玉から再び東京へと戻っていた。
普段は呼吸をする程度の気軽さで行える舞空術も、なぜかこのゲームの舞台では思ったより疲労が溜る。
「…む!?」
一瞬意識から逸れたその瞬間、目の前に捉えていたルフィの体が急に風船のように大きく膨らみ、飛んでいたスピードを落として真下へと落下し始める。
笑みを携えたまま、悟空はその落下地点目がけてスピードを上げる――
――対峙する、二人の男。
場所は東京池袋。本来は人・人・人で溢れかえるこの都会も、今は人っ子一人いない。
硬いコンクリートジャングルの地面でも、ゴム風船のように舞い降りたそのルフィの体はもちろん無傷。
あれほど飛ばされたというのに、その麦わら帽子は無くすこと無くしっかりと頭に被さっている。
「ふぅ〜、だいぶ飛んできちまったなぁ……やっぱ悟空はスゲェや」
「ハハ、今から戦う相手を誉めるのか?ルフィ」
飛んできた方角の空を眺めて目を細めるルフィ。そこにはすでに太陽の姿はなく…シトシトと降りしきる雨の粒がルフィの目の中に入り、パチパチとまばたきしながらかぶりを振る。
「ん?大丈夫だ。俺は悟空よりツエーから」
「……クックッ……ハッハッハッハッ!やっぱお前は面白ぇヤツだなぁ!」
臆面無くそう堂々と語るルフィに思わず悟空は心底から大声で笑いを上げる。
心優しき悟空から冷酷なカカロットとなった今でも、変わることの無いある共通の本能。
『強いヤツと戦いたい』
それこそが、孫悟空という者の体をつき動かす最大の精神。
地球人は弱い。しかしそうでない者は強敵へと変わる可能性を秘めている。
そんな根拠の無い理論さえ、今のカカロットにとっては疑う事もない真理。
「クックックッ……よぉし、んじゃ始めるとするか。今さら命ごいしてもムダだぞ?」
「しねェよ。悟空こそ、泣いて謝ったって許さねえ」
互いに準備は万端。どちらともなく構えを取り、口をつむぐ二人。
静かに、シトシトと雨が降る。
止まる二人の時間。道に植えられた木の青い葉に雨露が溜まり……露は大きな粒となり、重力に引かれて岩棚に弾ける。
「「うおおおおおおッッ!!!」」
ぶつかる互いの拳と拳。
その衝撃は周りの木々に溜まりつつあった雨露を全て弾き飛ばすほど。
「ゴムゴムのぉ…ッ!」
「ハアッ!!」
「グッ!?」
両手を後ろに伸ばしたルフィの横っ腹を、悟空は見逃さず回し蹴り。
しかし構わず!
「“銃乱打”(ガトリング)ッッ!!」
「避わすまでも無いぞ!ハアッ!」
瞬時に悟空の手のひらに光が集まり、小さな気弾がルフィのガトリングラッシュの中央に向けて放たれる。
「どわっ!?アチッ!!?」
「もう一発ッ!!」
いくらゴムの体で打撃がダメージに繋がらないとはいえ、その気弾の持つ熱までは防げない。
ガトリングの拳に気弾がぶつかり、拳を焼く。
痛みに怯んでラッシュが止まったその一瞬の隙、顔面に一直線に向かってきたもう一発の気弾を避わす事が出来ず、小規模ながらも派手な爆発がルフィの顔に直撃。
「そらそらそらそらアッッ!!!」
ダメージで吹き飛ぶルフィの全身に休む間もなく次々に襲いかかる大量な小さな気弾の弾幕。
なすすべもなく全てはルフィの足・腕・顔・腹…五肢全てに次々と着弾し、雪崩のごとき連続爆発によりルフィの体はダンスを踊るかのように暴れ回る。
「オリャアアアアッッ!!!!」
煙を纏い宙を舞うルフィの背にトドメとばかりに大きく踏み込んで掌底をぶち込み、凄まじい衝撃をモロに受けたルフィは矢のような速さで吹き飛ばされてビルの壁に叩き付けられる。
「ガ……は……ッッ!?」
ルフィが直撃したコンクリートの壁は派手に崩れ落ち、ルフィの半身を瓦礫の破片がガラガラと埋めていく。
「……ふぅ……。少しやりすぎちまったか?おいルフィ!まさかもう終わりだなんて言わねぇよな?」
両掌を軽くはたきつつ、ゆっくりとルフィの元へと歩み寄る悟空。
「……へへ…そうこなくっちゃあな…!」
瓦礫をものともせず、ルフィはゆっくり立ち上がる。
その肌は至るところに黒い焦げ痕を残し、口から少し血が流れてはいるが…その瞳からは闘志は全く衰えが見られない。
「……まだ、おめーをぶん殴るまでは……このくらい屁でもねぇよ」
「ぶん殴る?…そうだな、せめて一発くらいは当ててみせな。そうじゃなきゃ面白くねぇ」
悟空は首を軽く振りコキリと音を鳴らして、そのルフィを挑発するように手を突き出し人差し指をクイクイッと自分に向けて動かす。
それを見たルフィは「こんにゃろ」と小さく洩らしつつも口元には笑みが浮かび、右手の五指に力を込めてパキパキと骨を鳴らす。
「……ゴムゴムのぉ…!」
「またそれか?バカの一つ覚えみてぇに…」
また右腕を後ろに伸ばしていき、悟空に狙いを定めてずっしりと腰を据えて構える。
「鎌(かま)アッ!!」
しなる長い腕が途方もない射程のラリアットを繰り出す。
悟空はその腕を一歩も動かずにそのまま片手で受け止め…
「鞭(むち)ィッッ!!」
「おっと!」
続け様に悟空の足元をなぎ払う長い足払いをそのまま軽く宙に飛び、軽やかに回避する。そして…
「同じ手は二度も通用……しねえッッ!!」
「くっ!?ウワッ!!?」
腕を掴む悟空目がけて一気に腕を縮ませつつ射程内に飛び込み連続攻撃を仕掛けようとしたルフィを確認すると、ルフィの腕を両手で掴み強引に一本背負いの要領で後ろに投げつけ頭から叩き落とす。
「ぶへッッ!?いってぇ…ッ!クソッ!!」
砂で汚れた顔を手で拭うと、直ぐ様立ち上がり構える。
あの悟空相手に、畳み掛けられる隙を与える事が致命的なのは本能で知っていた。
「ん?どこ行った悟空ッ!!」
すぐに悟空の場所に目を移すも、姿が無い。
右、左、前、後ろ、どこに視線を向けても悟空がいない。
……いや!
「うえだああぁッッ!!」
「クッ!?」
ルフィの頭上から襲いかかる悟空。その手には長い『凶器』が握られていて…!
「潰れちまえッ!!」
「グアッ!!?」
ルフィの脳天を押し潰さんとぶつけられたその凶器、それは大きな電柱。
悟空は道に生えている電柱を一本抜き取り、舞空術でルフィの真上から強襲したのだ。
凄まじい力で電柱の底をぶつけられるも、何とか両手で受け止めたルフィ。しかしそれでも、悟空はその“宇宙最強”の途方もない力で押し込もうとする。
「ぬ、ぎ、ぎ、ぎ、ぎ、ぎぃぃぃ〜〜ッッ!!!」
「うおおおああああッッ!!!」
ゴムは、どんな衝撃も吸収する。しかし…輪ゴムも力いっぱい引き延ばせば千切れるし、ゴムマリだって車に引かれれば破裂する。
そう、それはルフィの体であったとしても…!
「グァァアアア…ッッ!!」
その体が悲鳴を上げ始める。
傷から血が滲み出し、節々が徐々に激しい痛みに襲われる。
「中々粘ってくれたけど…これでおしめぇだ!あばよっ、ルフィッ!!」
「グッ、おおぁああァァッ!!」
両腕両足がコンクリートの地面ごと押し潰されていく。
メリメリと音を立てつつ、その電柱の底がどんどんルフィを圧迫してゆく。
――ダメだ。やっぱ悟空はつえぇや……すまねぇみんな、オレの力じゃあ悟空を殴れなかった――
ルフィの心が…少しづつ、諦めの色に染まっていく。
すまねえ、牛のおっさん。すまねえ、猿、イヴ。
ゾロ、サンジ、ナミ、ウソップ、チョッパー、ロビン。
…ごめん、オレ、死んだ。
「これで……終わりだああッッ!!!」
最後の力で剛腕が電柱を押し込む。ルフィの頭はひしゃげ、ついには両手も電柱から離れて。
…ルフィの最後に見た景色は、その頭に乗っていた麦わら帽子が電柱によって醜く潰れていく様で……
――必ず、返しに来いよ、ルフィ。
ドクン
……ダメだ。やっぱ、まだ、死ねねぇ。
あの男との誓い。それを果たせぬままでは、死ねない。
「………う……お……お…お…ッ…!」
再び指先に力を込め、電柱の底に指を掛ける。
小指、薬指、中指、人差し指、親指。順番に、順番に、力を込めていく。
まだ死ねねえ。そうだ。何を血迷ってんだオレは。
男の約束を果たす。“友達”との約束を果たすんだ。
このままじゃ…牛のおっさんや、猿や、イヴに向ける顔が無えじゃねぇか。
「う…お、お、お、オオオオッッッ!!!」
「くっ!?しぶてぇッ!」
「オオオリャアアアアアアアアッッッッ!!!!」
どこにそんな力があったのか。いや、先ほどまでは実際に無かった。
ルフィの胸に宿った、友との約束を果たすという覚悟の意志。それがルフィの背を押す。ボロボロの体に、新たな力を宿す。
バキャッッ!!!
「な……なにいッ!?」
凄まじい力と力のせめぎ合いに耐えきれなくなったのは、電柱の方だった。真ん中から割り折られ、下半分がスローモーションで地面に吸い込まれるように…倒れ落ちる。
「……俺は、負けねえ」
――倒れた電柱から立ち上る砂塵
「……仲間が、いるから」
――そこから現れる、誇り高き男
「……大切な、仲間がいるから」
――半ば潰されかけていたその四肢は元に戻り
「……大切な友達が、俺を待ってるから」
――その怒りは、現実に姿を纏ってルフィの体から噴き出し
「だから」
――その男に、新たな“力”を授ける。
「俺は……絶対!負けねえッッ!!」
【インフェルノ//〜友情の聖域〜】
二人対一人。
しかし、現状では二人の方が敗色濃厚。
そのふざけた見た目からは信じられないような友情マンの速い動きと重い攻撃に、ブチャラティたちは防戦一方であった。
「ガハ……ッ!クソッ!スティッキィー・フィンガーズ!」
「おっと!危ない危ない。君の能力はもう把握したよ、その拳に当たるわけにはいかないね!」
実質、一対一の構図。
もう一人の仲間、翼をかばうように立ち回りつつ、さらにこの予想以上の強さを持った敵と渡り合うには……ブチャラティは今までの幾度と無い激しかった戦いで、もう体が傷付き過ぎてしまっていた。
「くっ…!」
忌々しげに歯噛みするブチャラティ。
五体満足の状態であったとしても、この友情マンの重い蹴りはスタンドでも防ぎきれるかどうか五分五分といったところか。
しかし今、傷付きダメージの深いブチャラティの体は…友情マンの攻撃を防ぐどころか、ガードすら間に合わない状態であった。
「ブチャラティ君っ!」
「来るなツバサ!君はそこにいるんだッ!」
ブチャラティの後方、そんなブチャラティの姿を見て心配の色を満面に浮かべて走り寄ろうとした翼を、ブチャラティは振り返らないまま強い口調で制止する。
「そんなに焦らなくても、ブチャラティ君の次は翼君の番さ。友達思いはいい事だけど、まあ慌てないでゆっくり待っててよ………すぐ、終わるからさ」
そんな翼に向けて微笑み返し、再びブチャラティに視線を戻す。
地面に両手を突いて激しく咳き込むブチャラティの様子を見て、友情マンは「やれやれ」と小さく自嘲ぎみに呟く。
「友達が苦しむ姿を見るのは、やっぱり僕も辛いよ。下手に抵抗するからいけないんだよ……せっかく、苦しまずに楽に殺してあげようとしてるのに…」
「……まれ」
「ん?」
低く、聞き取りにくいその小さな声に眉を潜め、友情マンはブチャラティを不思議そうに見つめ返す。
「何か言ったかい?」
「……黙れ、と言ったんだ。“ソダリッツィオ・ブジャルド”」
「ソダ…?……何だい?それは」
聞き慣れない言葉に首を傾げ、友情マンは一歩一歩、ブチャラティに近付いていく。
「……答える義務は…無い!スティッキィー・フィンガーズッッ!!」
地面に膝を突いたままだが、近寄った友情マンに向けてスタンドを発現させ、右ストレートを放つ。
しかし友情マンはその射程距離を完全に見切っているかのように、スタンドの拳が届く寸前で足を止めて一歩下がる。顔前で止まる、スタンドの拳。
「危ないなぁ……無駄だよ無駄!僕の『分析力』…甘く見てもらっちゃあ困るよ」
「…くッ…スタンドの射程距離さえも、完全に把握したと言うのか…!?」
「ふふ……どんな人種、どんな性格、どんな能力を持つ人だろうと『友達』になる一番の近道を…最適な手段を、瞬時に分析するのは一番の得意技さ!そのくらいは当然だろ?」
余裕浮かぶ笑みを携え、朗らかにそう話す。しかししばらくその場に固まり、う〜んと首を捻ると…懐から一枚のカードを取り出して、それをブチャラティたちに見せ付けるように掲げる。
「…いくら半死半生の君とはいえ、やっぱりその不思議なジッパーの能力は厄介だね。よし、こいつで引導を渡してあげる事にするよ!」
「……?カード…だと?」
『引導を渡す』の言葉に不吉な予感を覚えたブチャラティだが、見せられたカードの背の茶色模様からは何のカードなのか窺い知る事は出来ない。
だが不吉な予感は拭えない。力を振り絞り、よろめきながらも立ち上がる。
「フフフ……やっぱり、持つべき物は友、だね。これをくれた桑原君には感謝しなきゃ」
「クワバラ…だと!?」
耳にしたのは、よく知る名。思わぬ所で聞いたその名前に驚き、目を見開く。
「そうさ。彼も僕の数多い友達の内の一人さ。そして………君が殺した『ガラ』君も、僕の友達だったんだ…!」
「!!」
それは、忘れる事も無い……ブチャラティが命を賭けて戦った、あの男の名前。
「………仇討ち、という事か?」
「………フフ…違うよ。確かに彼があんなに何の役にも立たないまま殺されちゃったのは不本意だったけど……」
「………」
「……どうせ彼にも、最後には死んでもらう予定だったんだ。君が憎いわけじゃない。…君だって、僕の“友達”なんだから」
……狂人とは、本人に自覚が無いからこそ狂人。
目の前のイカれた格好の男は、まさしく頭の中までイカれている『狂人』であると、改めてブチャラティは思い知らされた。
「……“ソダリッツィオ・ブジャルド”……」
再び唇が呟く。そして震える膝に喝を入れ、ブチャラティはしっかりと両足で大地を踏みしめる。
「…だから、それは何の言葉なんだい?おまじないか何か??」
「……答える義務も……義理も無いッッ!!走れ!ジッパーッ!!」
射程外の友情マンに向け、腕を振り上げて地面に長いジッパーを取り付ける。
「ウワッ!?」
射程の外だと少し油断していた友情マンの足元までジッパーは伸び、驚きで口を大きく開いて慌てて飛び退く。
「くっ!リバースカードオープン!『千本ナイフ』発動ッ!!」
飛び退きすぐ手に持つカードを反転。そう叫んだ友情マンの背には空中に無数のナイフが出現する。
「飛び道具か…!」
「そうさ!使えて安心したよ…『ブラックマジシャンが場に存在しないと使えない』だなんてカードには書いてあるけど、一応単体でも使えるみたいだね」
全てのナイフがブチャラティを狙う。友情マンのGoサイン一つでブチャラティを確実に抹殺するであろう無数の悪意。
(普通の手段では、奴をスタンドの射程距離内に捕えられないろう……さらにヤツはもう完全に最後まで“射程外”からの攻撃だけで俺を仕留めるつもりのようだ。ならば……普通でない手段を使うまで!BETするのは…オレの命ッ!)
「……君の能力、おそらく体に受ければ十分に殺傷能力を持つんだろうね。だからこそ『ガラ君の斬魄刀を回収しなかった』。やはり僕の予想は正しかったみたいだね」
対峙する、悪意と決意。その両者の瞳に互いに映るのは、自分とは相反する全く異なる男の姿――
「どこに逃げても回避は不可能さ!千本ナイフ!ブチャラティ君を攻撃っ!!」
掛け声と同時に発射される幾多のナイフ!全てがブチャラティだけを狙い、一直線に風を切る!
「ウオオォッ!閉じろジッパァーーッッ!!」
「なっっ!?」
友情マンの予想とは全くの逆。
右に逃げる?左に逃げる?
違う!なんとブチャラティは地面に付いた友情マンの足元まで伸びているジッパーを伝い、地面スレスレで一直線にナイフの真っ只中へと自ら突っ込んでゆく!
「ウオオオオオオッッッ!!」
顔だけをスタンドの腕でかばい、地面を腹で滑るように友情マン向けて飛び込んでいくブチャラティ。
ついにはナイフの雨あられと交錯し、ブチャラティの腕や背・足へと何本ものナイフが鈍い音を立てながら刺さっていく。
「な……なぜ自分からっ!!?」
ブチャラティの行動は完全に友情マンの予想の範疇を越えていた。
頭を守る腕以外は、急所を守るだとかナイフを避けるだとか、そんな小細工も全くしていない。噴き出す血潮は滝のように。その決意を鬼神のごとき形相に現し、ついにブチャラティは友情マンを射程距離に捕える!
「食らえッッ!スティッキィー!フィンガーズッッ!!!」
ズドンッッ!!!
―――体が、吹き飛ぶ。
激しい衝撃と共に、その体はまるでコマ送りのようにゆっくりと、地面に吸い込まれる。
「―――ブチャラティくぅぅーーんッッ!!!」
翼の叫び声が、雨の中こだまする。
「ハァ……ハァ……あ……危なかった……!」
――地に伏すは、ブローノ・ブチャラティ。
その上半身は真っ黒に焼け焦げ、背に生える無数のナイフが無情な暗い光を放つ。
「ハァ……ハァ……」
ブチャラティの誤算は、たった一つ。
ナイフによる遠距離攻撃を放ったすぐ後に相手の間合いに飛び込めさえすれば、カウンターが成り立つという戦略。
しかし、誤算。友情マンの持つ、もう一つの遠距離攻撃――太陽光線。
ナイフと光線の二段構えの連続遠距離攻撃を前に、ブチャラティの拳は友情マンに届く事が叶わなかった。
「ハァ………おや?」
大の字でうつ伏せに倒れ伏すブチャラティの指が微かに動く。それを見た友情マンは、顔を上げて息を整えるべく…大きく息を吸い、吐く。
「フゥ…。まだ息があるのか…」
足元に落ちている一本のナイフを拾い上げ、友情マンはブチャラティの方へ体を向ける。
「…友達なんだから、ちゃんと楽にしてあげるよ。これ以上、君が苦しむ姿は見たくないしね…!」
右手に白銀のナイフを握り締め、降りしきる雨の中をブチャラティの元へとゆっくり近付いていく。
水溜まりを蹴り、砂利を踏みしめ、そして――ブチャラティを頭上から感情の伴わない瞳で静かに見下ろす。
「さよなら、ブチャラティ君。この雨が…僕の、涙雨。もう苦しむ事は無いんだ…」
軽くしゃがみ込み、手に持つナイフを振り上げる。
そして……ナイフは、降り下ろされた。
―――その瞬間、友情マンの思考が、白く染まる。
まるでそれは、脳髄を刺し貫く閃光の様な衝撃。
「グアァッッ!!?」
何かが友情マンの頭を撃ち抜く。真後ろからその大きな衝撃は後頭部へモロに直撃し、小さく血しぶきを飛び散らせながら友情マンは地面に倒れる。
「グッ……アッ…!!な、何が…ッ!?」
ブチャラティに達しなかったその小さなナイフは離れた地面にカランと音を立て舞い、頭を押さえながら緩慢に上半身を起こし、そして焦点の合わない両の眼で――見た。
――地面を跳ねながら、持ち主の元へと帰還する、その正体。
木目浮く、サッカーボール。
それを足の裏で地面と挟んで止める、その男の姿を。
「――許さない」
そうしっかりと、その男が口にした。
強い意志の力を眼(まなこ)からほとばしらせた、大空翼という名のその男が。
【インフェルノ//〜ギア・2(セカンド)〜】
砂塵から姿を現す、強い生きる意志を胸に宿したルフィ。
その体から溢れ出す、まるでそれは、ルフィの“覚悟”が具現化されたかのように。
ルフィの全身からは――強い水蒸気の様な煙が、大量に立ち昇っていた。
「よっ…と。………なんなんだそりゃ?ルフィ」
「…………ん?何がだ?」
ルフィの体に起きている異変。悟空は折れた電柱を隣に投げ捨てると、ルフィの前方10メートル程の地面に降り立つ。
「おいおい…勘弁してくれよ。まさか派手に自爆して、道連れにしようとか考えてるんじゃねぇか?」
「………は?」
体全体から溢れ出る白い煙。
ルフィの肌は40℃以上の高熱が出ているかのように赤みがさし、悟空の言葉の通り…今にも『大爆発』を起こしそうにも見える、異常な風貌である。
「なに言ってんだよ悟空………って?ウワッ!?何だ何だ!?どーしちまったんだよ、オレの体…!!」
自身の異変に気が付かないほどの興奮状態だったのか、悟空の問掛けが理解出来ないといったような侮然とした面持ちで自分の両腕を顔前に掲げて見、そこで初めて『それ』に気付き慌てふためく。
両腕からも次々に煙が立ち上り、それは自分の意思で止める事も抑える事も出来ない。
「………わざとじゃねえのか?………フハハハハッ!やっぱお前、おもしれーカラダしてんだなぁ!」
「わざとなワケねぇじゃねーかッ!なんか体がアチーし!?おい!止まれ!止まれったら!!」
ルフィは必死に体のあちこちを掌で押さえて煙を止めようと試みるが、その現象にはまるで効果は無く。
「ハッハッハッ!!いーじゃねーか!何か強そうに見えるぜ?『燃える男』って感じで」
「………燃える男?…強そう…?」
「ああ」
楽しげに笑いを上げながらの悟空のその指摘に、ルフィの目の奥で一瞬…怪しい光がキュピーンと光る。
「よし!!ならいい!!さ、続き始めようぜ悟空!」
鼻息を荒くし、満面の笑みを浮かべて腕をグルグル回すルフィ。
「おーし!仕切り直しだな。今度こそ、オレを楽しませてくれよ?」
「ざけんじゃねぇ!へへ…!」
ルフィは回す腕を止めて両拳を顔の前でガキ!と合わせ、再び戦闘体勢に入る。
悟空も、そしてルフィも、笑顔。
どちらも、悲壮さの微塵も感じさせない…期待に満ちた笑顔を向け合う。
もしこの場に第三者がいたとするなら、この二人を見て『狂ってる』とでも吐き捨てるかもしれない。しかし、それでもこの二人は気にも止めないだろう。
強き敵と戦う。それは、悟空にとっては至高の喜び。ルフィにとっても、小細工無しの力比べは楽しくて仕方のない物。
二人を止める事の出来る者はこの世に存在しない。
激しさをさらに増していく豪雨さえも、二人の障害にはなりもしない…!
「今度は……オレから行くぞッ!!」
「来い!悟空ッッ!!」
初めて悟空が先に仕掛ける。地を強く蹴りつけて一直線にルフィ目がけて突進。
対するは、真上に両腕をグングン伸ばしていくルフィ。
「自分の技…食らってみろッ!!」
ズンッ!!!
悟空は光のごときスピードで突進し、一瞬でルフィの鼻先まで迫る。そしてルフィの頭に直撃する、悟空の岩をも砕くヘッドバッド。
…いや、砕けたのは…ルフィの背後の壁。コンクリートの壁に悟空のその石頭をほとんどめり込ませ、そこを中心に花が咲くように巨大な亀裂が走る。
「ゴムゴムのッ!」
「ふん!上かッ!?」
豆腐の壁から出るかのように容易く頭を出し、その頭上を見上げる。
ルフィはビルの屋上のフチに指を掛け、腕を一気に縮めて急上昇していた。
すぐに屋上から指を離し、自由落下しながら右足を振り上げる。
「伸びる踏みつけだな!?あめぇッ!!」
「…“スタンプ”ッッ!!」
ルフィの位置から攻撃の軌道を瞬時に判断し、それに当たらない角度を付けて斜めに舞空術で急上昇!
ドガンッッ!!!
「…………な……?」
悟空の予定通り、真下に伸びた足は悟空には当たらなかった。
しかし……
「………あれ?」
ルフィは、悟空が斜めに飛び上がる様を見てこちらも軌道を予測。飛ぶ悟空と伸びる足の軌道が交わるように、攻撃を繰り出した。
「………何だ、今のスピードは…!?」
伸びた足は、悟空の頭上をかすめ、コンクリートの地面に突き刺さった。
今までのルフィの数々の技とは比べ物にならない…ルフィ自身が思いもよらない次元の違う“超速度”で足が伸び、悟空に当たる事無く地面に突き刺さったのだ。
「今の“スタンプ”……なんなんだ…!?」
「たまげたぜ……ルフィ!」
「よし!もういっちょ!ゴムゴムのォ…!」
地面から離れた左足が縮みきるのを待つ間も無く反対の右足を振り上げて頭上に伸ばし、狙いを再び定める。
「…!!させねえっ!!」
そのルフィの動作を中断させるべく、悟空は一気に間合いを詰めんと舞い上がる。
「…“斧”(おの)オオッ!!」
「……く!!?」
ズドン!!!
「………か……は…!?」
悟空の右肩に、ルフィのカカトが食い込む。
もはやその“斧”は“光の斧”。
伸ばした足を一気に縮めて放つその強力なカカト落としは、悟空に全く回避の余裕を与えずに人知を越えたスピードで突き刺さった。
「ぐ……!また…はえぇ…ッ!?」
「うおおおおッッ!!」
「クッ!?」
悟空が顔を上げた先、ビルの壁を足蹴にしてロケットのように突進するルフィの姿。
「“銃”(ピストル)ッ!!」
「ガッ!!?」
ルフィの肩口に構えられた拳が姿を消し、一瞬で悟空の腹部へと衝撃が走る。
「カハ…ッ!ちッ!“太陽拳”ッ!!」
さらなる追撃を防ぐべく両手を額にかざし、掛け声と共に放たれる鋭い閃光。
「うわっ!?目がッ!!?」
その閃光は見開かれていたルフィの両の目に焼き付き、一時的に視力を奪う。
「セヤァーーッッ!!」
「グ、は…ッ!?」
悟空は目をかばいうつ向いたルフィの腹部に蹴り上げを放ち、思いきりつま先をねじ込んだ体を勢いのままビル壁へと叩き付ける。
「か、め、は、め……」
「クゥ…!ゴムゴムのぉ……」
そのまま流れるような動作で必殺の構えに入り、掛け声を始める悟空―――壁に叩き付けられ空中に跳ね返った勢いを殺さぬまま全身をクルクル回転させ始め、徐々にその回転速度を上げていくルフィ…!!
「波ああああああああッッッ!!!」
「“花火”いいいいいいッッッ!!!」
目が見えずとも関係の無い、360度全方向が射程の両手両足による無差別ラッシュが悟空の顔に、腹に、肩に、ぶち込まれる。
しかしその凶悪な“花火”の中心であるルフィ本体に巨大な気の大砲が直撃し、ルフィはビルの窓を突き破り、さらには奥の壁をも容易く貫通して遠くに吹き飛ばされていく…!
悟空の体はかめはめ波を中断させられ真下の大地へと力無く落ちてゆき……
ルフィの体はビルを抜けた向こうの林の中へと消えてゆく……。
――――あー、楽しいなあ…。
ルフィのヤツなら…あんなんじゃまだくたばっちまうはずもねぇ。
オラやっぱ、つええヤツと戦ってる時が……
………“オラ”?何言ってんだ、オレは。
きりきりきりきりきりきり。
どこかで聞いた覚えのある、耳障りな音が聞こえてくる。
――いてえ。なんかまた頭がいてえ。
きりきりきりきりきりきり。
――なんだよ、分かってるって。地球人さえ全部殺しちまえば…このモヤモヤも、スッキリするんだ。
地面に大の字に寝そべったまま、その全身に雨を受け続ける。
孫悟空の身に宿りし地獄の業火の化身は、狂おしいまでの熱量の猛りをいまだ陰らせもせず――
「―――ルフィ」
「ん?…あ、悟空」
強い雨風に揺られる木々に囲まれた土の地面に倒れるルフィの、その横に降り立つ悟空の姿。
ルフィは「よっ」と勢いを付け立ち上がり、麦わら帽子を地面から拾い上げる。
「ルフィ、最後にもう一度だけ聞く。……オレと一緒に来ないか?」
強い風にかき消される事も無い、透き通るような声で語りかける。
「いやだ」
「………頑固なヤツだなあ、おめぇは。……なんでそんなに地球人なんかの肩を持つんだよ?おめぇと違って、何にも出来ねえ脆弱なやつらじゃねえか。
あんなヤツらは仲間にする価値もねぇ」
帽子を大切そうに手に持ち、軽く砂を払い頭に乗せる。
ルフィは少し空を見上げ、降り続く雨をぼんやりと見つめる。
「オレは、なんにもできねえんだ」
「………」
「料理も作れねえし、病気や怪我も医者みてえに治せねえ。航海術も知らねえし、嘘もつけねえし、頭もわりぃ」
悟空には視線を向けぬまま、空に向けて淡々と話し続ける。
「オレは仲間に助けてもらわねえと、生きていけねぇ自信がある」
「……言いてえ事が、よく分かんねえよ」
構える事もなく、ルフィのその顔をじっと見つめ続ける悟空。
――悟空、そんなのも直せねえのかよ?情けねえなぁ…ハハハ!ちょっと貸してみろって!
――悟空さ〜!晩飯が出来ただよーっ!?
――孫君、ほら、ここを押したら……ね?簡単でしょ?この光ってるのが四星球よ。
(………なんだ、今のは)
脳裏をよぎる、どこかで聞いた声たち。いつの日かの、遠い過去の景色。
「………るせえ……!」
「……ん?」
「……うるせえって言ってんだ!!」
前ぶれもなくいきなり怒号を上げ、ルフィの頬に大振りの拳を叩き付ける。
「ギッ…!?このやろッ!!」
「ガッ!?」
拳をモロに打ち込まれながらも、ルフィもお返しとばかりに悟空の横っ面に拳のカウンターを決める。
吹き飛ぶ両者は互いに尻餅を突き、服を泥まみれにする。
「く……、もういい!ルフィ!決着を着けてやる!おめぇも!地球人も!みんなみんな皆殺しだッッ!!」
暗雲に小さく轟く雷鳴は、その獣の咆吼を飲み込んで唸り続けていた。
【インフェルノ//〜フィールドの王〜】
頭に。腹に。脇に。腕に。足に。
その弾丸は絶え間無く浴びせられる。
「ッッ!!がッ!!グアッ!!」
「食らえエエッッ!!」
「やめ…グハアッ!?」
それはまるで、サッカーの壁蹴り練習のように。
木製サッカーボールは寸分たがわず的確に友情マンの体に激突し続け、そのボールは必ず持ち主の場所にリバウンドする。
最初に後頭部への強烈な一撃を受け、友情マンの平衡感覚は失われていた。
最初のダメージ自体はそれほどでもない。本来ならばその脳へのダメージも、時間が経てばすぐに収まる程度の軽い脳震盪(のうしんとう)である。
しかし、時間が空く事無く続け様に第二撃。第三撃。
回避も抵抗もままならず、翼の蹴るボールはサンドバッグのように一方的に友情マンの体を痛め付けている。
(やばい!何だこれは!?あの無力そうだった彼が…まさか、こんな…!?か、回避を…!!)
肺の辺りにも直撃し、呼吸もままならない友情マン。
その顔は腫れ上がり、唇が切れて血の味がしていた。
「ヤアッッ!!」
「グアッ!?う、腕が…ッ!?」
迫り来るボールに向けて手を差し出して直撃を防ごうとするが、焦点の合わない目ではボールが分裂しているかのように見えてしまい距離感も掴めない。
キャッチに失敗したボールが友情マンの左腕に当たり、腕が有り得ない方向に曲がる。
(死ぬ、死んでしまう!!有り得ない!何なんだ彼は!?こんな硬いボールが有ってたまるか!なんで彼の脚は平気なんだ!?)
「ブチャラティ君の……カタキだあああっっ!!!」
翼の顔は怒りに染まり、その怒りは黄金の右足に伝導する。
弧を描き帰ってきたボールめがけて飛び上がり、バク転。空中からのオーバーヘッド!
(何とか、何とかしないと!!)
焦燥に駆られ、足が勝手にじりじりと後退していく。
このままだと、確実に死ぬ。友情マンはこの怒れる青年に“恐怖”すら覚え始めていた。
体の隅々まで行き渡る焼けつくような痛みはまるで地獄の業火のようであり、それは友情マンを今にも焼きつくさんと蝕んでいく。
それ以上足を動かす事も事も叶わず…
ズドン!!!
「……………」
「……え…?」
友情マンの足元に埋まる球状の凶器。
そのボールは地面の泥をえぐり、目の前で止まっていた。
「………ボールは…人殺しの道具なんかじゃない……ボールは『友達』なんだ…!」
――大空翼は、泣いていた。
雨の中を立ち尽くし、やり場の無い怒りと悲しみを噛み締め、ただ…涙していた。
(わざと…外したのか?いや、どちらにしろこれはチャンスだ!)
攻撃がようやく止まり、安堵と殺意が顔を出す。
おぼつかない足取りで前に出てしゃがみ、ボールを持ち上げる友情マン。
「優しいんだね、君は……」
「ウ……ウゥ……ッ!」
次々と流れ出す悲しみ。
目の前でブチャラティが死んだという現実により、翼はようやく“死”というものを受け入れ始めていた。
――石崎君も、日向君も、若島津君も、ブチャラティ君も……
みんな、もう二度と一緒にサッカーが出来ないんだ。死んでしまったんだ…。
翼は、現実から逃げていたのかもしれない。
殺人ゲームなどという非日常。
こんな場所に突然放り込まれ、殺し合いなどとは無縁の人生だった翼が『まとも』でいられるという方が無理な話だったのだ。
「……もう、誰も…死んでほしくないんだ……ウウ……!」
「………」
止まらない涙は頬を伝い、雨に流され地に落ちる。
友情マンは憂いに満ちた表情で、翼の方へと足を進めて…
「…来ないでくれ!」
その友情マンを睨みつけて叫ぶ。
「君は……ブチャラティ君を、殺した。命は…奪わないけど、許す事は出来ないよ……」
悲しみ深いその瞳は、友情マンの足を止める。
「……そうか、分かった。これ以上近寄らないよ」
「………」
「でも…このボールは君の物なんだろ?」
無言の翼に木のボールを見せる。
しばらくの沈黙。
「………チームメイトが、作ってくれたんだ」
「手作りなのかい?なら、これは君に返すよ」
友情マンは地面にボールを落とし、軽く足を後ろに引く。
「……サッカーで……」
「…え?」
―――違う。
引いた足は、頭より高く上がる。
「……殺してあげるよ!!」
「…!?なっ!!?」
その蹴りは、努力マンと同等と評された事もあった友情マン。
その全力の蹴りから放たれるシュートならば、相手が一般人であれば間違い無く確実に命を奪う程の代物。
「僕のために!死ねぇーーーッッ!!!」
翼のシュートより遥かに強力。
ただのスポーツ選手のそれとは全く次元の違う、悪魔のごとき殺人シュートが放たれる!
「見えッ…!?」
絶望的なまでの速さで襲いかかるそのシュートは、翼の脳が判断する間も全く無く一瞬で眼前に迫る。
翼が確実な『死』を感じた瞬間には、それはもうすでに回避もガードも不可能な距離。
死ぬ。
その言葉を、ようやく頭が理解した。
ガ ッ !!!
鈍い音が、辺りに響く。
ボールは翼の頭で跳ね、真横の木の幹に突き刺さる。
「………そんな………馬鹿なッッ!?」
ボールが跳ねたその場所に、立ったままである翼の体。その片腕が、真横に伸ばされている。
腕の先には握りこぶし。こぶしの先には、幹に埋まるボール…!
「空手パンチで……僕のシュートを…防いだ!?そんな馬鹿なっっ!!」
―――まったく……世話が焼けるな、翼。
翼の体にダブる、ある男の影。
友情マンには見えない。翼の目にも映りはしない。
「………若島津君は…毎日毎日、こんなシュートを受けてきたんだ…!」
「君は……君は、一体…!?」
友情マンの目に映るは、王の姿。
四角いフィールドに君臨する……“世界”の、大空翼の姿。
「僕らは、一緒の……一緒の世界で……繋がってるんだ!」
幹から転げ落ちたボールは、翼の足元に。
―――へへっ!行こうぜ!翼!
―――オレたちのサッカーは、あんなヤツには絶対に負けはしない…!
翼を挟む、二人の仲間。
「行こう……石崎君……日向君……!」
それは、目には見えない『絆』。
翼の信じる、サッカーを通じた絆。
「あ………あ………?」
「食らえええッ!トリプル――シュートオオーーーッッ!!!」
「うわ……うわああああーーーッッ!!?」
三人の心が、一つのボールを通して繋がる。
ボールは稲妻となり、金色の光を放つ。
…翼の足は、砕けた。木製のボールが翼のスポーツ生命を絶ってしまった。
ド ツ ッ
「……………え?」
――翼の額に、ナイフが生える。
「…………な…ん…」
ゆっくりと、前のめる。
思考が定まらず、目の前が白く染まる――
「………君の、負けだよ」
ホワイトアウトしていく視界の端に映ったのは、何事も無かったかのように無事な姿である友情マンの姿と――
「魔法カードを、発動したよ。君のボールは“封札”された。やれやれ……死ぬかと思った。ま、僕に最後の切札を使わせたんだ……立派な物だよ……」
“光の封札剣”で地面に串刺しにされた、彼らの“絆”の姿だった…。
【インフェルノ//〜神薙〜】
もはや、どんな者にも止められない。
拳は血を噴き、体は泥にまみれ。
殴って、蹴って、頭突いて、投げて。もはや体裁も何も無い。
二人の戦いは、もはや見るに耐えない泥試合。
「ウリャアアアッッ!!」
「だりゃあああッッ!!」
透き通る。
何の雑念も、思惑も無い。
汗が煌めき、舞い上がる。
「隙だらけだぞ!ダリャアッ!!」
「グヘッ!?くっ、そっちこそ!!」
「ガハッ!?このお…ッ!!」
もう駆け引きも何も無い。あるのはただの意地と意地。
殴って、殴って、殴る。
終りの見えない拮抗。
「ハァ…ハァ…ハァ…」
「ハァ…ハァ…ハァ…」
拳が互いの腹を撃ち抜き後ろによろめいて間合いが離れると、二人とも肩で息をして睨み合う。
「ハァ…ハァ…そろそろ…ハァ…限界なんじゃ…ねえのか、ルフィ?」
「ハァ…んな…わきゃ…ハァ…ねえだろ…」
虚勢を張るのも、意地の張り合い。
「ハァ…おい…ルフィ、…ハァ…そろそろ…一番…つえぇ技で…ハァ…ケリを、着けようぜ…!」
「ハァ…ハァ…そうだな…悟空…!」
お互い口には出さずとも、すでにどちらも体が限界に近い。
二人は背を向け数歩分距離を離すと、再び向き合い顔を合わせる。
「……次で、ほんとの最後だ。覚悟はいいな?」
「……ああ…悟空を倒す覚悟なら、とっくに出来てる」
薄く笑みを向け合い、両者とも腰を落として深く構え直す。
「界王拳ッッ!!」
残り少なかった悟空の気が膨れ上がる。体を纏うオーラが目に見えて増加。
「確か、こんな感じだっけ……?」
ルフィは自らの意思で足首を潰すように縮め、そしてそこを一気に解放。
すると大量の血液が無理矢理下半身から心臓付近に送り込まれ、半ば消えかけていた体からの煙が再び勢いを増し始める。
「……おめぇなら…いい『仲間』になれたと思うんだけど……残念だよ、ルフィ」
「………」
悟空は両手を腰の後ろに構え、ルフィに静かに語りかける。
ルフィは無言のまま両手をグルグル回した後、一気に遥か後方へと両腕を伸ばしていく。
「かぁ……めぇ……」
「ゴムゴム……」
「はぁ……めぇ……!」
「ゴムゴムの……!」
息が止まるほどの静寂。
視線は相手の姿だけを映し合い、そして……!
「はあああああーーーーーッッッッ!!!」
「バズーカアアアアアーーーーーッッッッ!!!」
悟空の放った極大かめはめ波を貫くルフィの両腕。しかし貫いたとはいえ、その接触部は激しい熱を受けて焼けただれていく。
「おおおおおおおおおッッ!!!」
「アアアアアアアアアッッ!!!」
どちらの奥義も、止まらないどころかどんどん威力と勢いを増してゆく。
叫ぶ咆咬は天を揺るがし、神をも引き裂く。
「ごぉぉくぅぅうウウウウウウーーーーッッッッ!!!」
「ルゥゥフィィイイイイイーーーーーッッッッ!!!」
二つの“信念”は交錯し、二人の戦士に喰らいつく。
―――きりきり…きりきりと、何かが削れる音がする。
最初のそれは“地球人”を削る忌まわしい金属音だった。
再びそんな音がする。
―――悟空…?
オレさ、馬鹿な事、しちゃったんだ。
取り返しのつかない…馬鹿な事さ。
死んじまったから、償う事も出来ないんだ。
苦しいよ……悟空。
……けどさ、悟空。
お前は、まだ生きてるんだ。
お前は、まだ償えるんだ。
だからさ、頑張ってみてくれよ。オレの分まで。
いいじゃねえか、オレとお前の仲だろ?
これくらい、頼まれてくれよ。
これだけが、お前に対する…最後のワガママさ。
いつもはお前がワガママ言う側なんだから、最後くらいはオレが言わせてくれって。
……じゃあな、悟空。もうお前には二度と会えないんだ。
楽しかったよ。お前と一緒にやってきた人生。
もし叶うなら、生まれ変わっても……また、会おうな。
だってお前は、オレの、一番の………
きりきり、きりきりと、それは何かを巻き戻す音。
止まった指針が、巻き戻る。
狂った時計が、巻き戻る。
壊れていたなら、直せばいい。
直ったならば、ネジを離そう。
時間が再び、動き出せるように―――
【インフェルノ//〜奴隷は眠らない〜】
友情マンは、気配を殺して隠れていた。
物陰から見つめるその先、背負う男と背負われる男。
(……なんてこった……全部…無駄になってしまった…!クソッ!!)
ルフィが歩く。その背には、気絶した悟空の姿。
(まさか…カカロット君が負けるだなんて…!あの麦わら君、そこまで強かったのか…)
軽く舌打ちし、自分の計画破綻を嘆く。
ルフィたちはどんどん遠ざかっていき、ついには姿が見えなくなる。
(完全に……僕の計算ミスだな。今麦わら君とはち合う訳にはいかないし……何か新しい手を考えないと…)
折れた左腕がズキリと痛み、口元を歪ませる。
(まあ、とりあえず……何か食べよう)
空腹と戦いの疲れで足がもう動かない。
友情マンは壁にもたれてズルズルと腰を降ろし、ブチャラティたちから奪った食料を広げ始める。
(……食べ物があるって、素晴らしい事だなぁ……)
ミジメに耐えるだけだった胃袋に久々の補給を与えつつ、友情マンは次の一手を模索し始めた―――
―――ブチャラティは、まだ生きていた。
何本も刺さるナイフからはとめどなく血が溢れ、上半身の火傷は息をしただけでも酷く痛み出す。
しかしまだ、辛うじて生を取り留めてはいた。
(……戦いは……どうなったんだ……?)
意識を取り戻した時、すでに戦いは終わっていた。
辺りからは雨粒が地上に落ちて奏でる不規則なリズムしか聞こえてこない。
(モンキー・D・ルフィ……ツバサ……な…ツバサッッ!?)
自分の隣に眠る、大空翼。
安らかな寝顔は赤い血で覆われ、彼が絶命している事はブチャラティにも一目瞭然だった。
(………すまない、ツバサ……)
守れなかった。その事実が胸を痛みで押し潰す。
(……オレももうじき……死ぬ。ツバサ、オレも君と共に行こう。だが、せめて、君だけでも……!)
動かない体に最後の力を振り絞りスタンドを発現させ、翼の首筋へとスタンドの手を添わせる。
(………ベネ[良し]。やはり生命活動を停止した体からなら……首輪は外せた。ツバサ、君はこれで“奴隷の呪縛”から解放されたんだ)
翼の首からいとも容易く首輪を外せ、その成功に薄く微笑みを浮かべる。
(人は皆…眠れる奴隷だ。だが、それは“誰か”に決められた事では無い。あの主催者たちだろうと…だ。
…オレたちの運命を勝手に決める事など…誰にも出来はしない!)
口を固く結び、天を見上げる。
(ハルコ……ツバサ……カズマ……オレたちは“家族[ファミリー]”だ。
あんな“ソダリッツィオ・ブジャルド[偽りの友情]”とは違う、本物の“絆”で結ばれている……)
ブチャラティの瞳が閉じられる。スタンドは薄く透けてゆき、握る拳が緩んでゆく。
(……魂は……受け継が…れる…。なるべくしてなった……これで……いい……)
シトシトと、雨が降る。
洗い流すは男の生。
ブチャラティの手に握られた忌まわしき束縛の首輪は、横で真っ二つに割られていた。
運命の束縛から解放された二つの魂は今…ようやく自由を得る―――
【東京〜埼玉の県境付近/昼】
【モンキー・D・ルフィ@ONE PIECE】
[状態]:両腕を初め、全身数箇所に火傷。疲労・ダメージ大。空腹。
:ギア・2(セカンド)を習得
[装備]気絶した悟空
[道具]荷物一式(食料半日分・スヴェンに譲ってもらった)
[思考]1:ブチャラティたちと合流
2:ルキア、ボンチューと合流する為に北へ
3:"仲間"を守る為に強くなる
4:"仲間"とともに生き残る。
5:仲間を探す
【孫悟空@ドラゴンボール】
[状態]:顎骨を負傷。出血多量。各部位裂傷
:疲労・ダメージ大
[装備]フリーザ軍の戦闘スーツ@ドラゴンボール
[道具]:荷物一式(食料無し、水残り半分)
:ボールペン数本
:禁鞭@封神演義
[思考]1:気絶中
2:不明
※カカロットの思考は消滅しました。
【東京都/昼】
【友情マン@とっても!ラッキーマン】
[状態]:腕を骨折
:全身に強い打撲ダメージ
[装備]遊戯王カード@遊戯王(千本ナイフ、光の封札剣、ブラックマジシャン、ブラックマジシャンガール、落とし穴は全て24時間後まで使用不能)
[道具]:荷物一式(水・食料残り七日分)
:千年ロッドの仕込み刃@遊戯王
:スーパー・エイジャ@ジョジョの奇妙な冒険
:ミクロバンド@ドラゴンボール
:ボールペン数本
:青酸カリ
[思考]1:休息を取る
2:次の作戦を考える
3:参加者を全滅させる
4:最後の一人になる
※ブチャラティの手には翼の首輪(ドーナツ状に真っ二つになっている)が握られています。
※千本ナイフにより具現化したナイフはすでに消滅しています。
【ブローノ・ブチャラティ@ジョジョの奇妙な冒険、大空翼@キャプテン翼、死亡確認】
【残り38人】
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