0169:螺旋は回る。狂々と



「せいぜい楽しませてくれよ!!」
 押さえきれない笑みを溢しながら、圧力と死を持って死神が駆ける。

 標的はどちらにするか。
 そうだな。まずは―――
「まずは、チビ。オマエからだ!!」
「うわあぁぁああ!!」
 眼前に迫るその圧力に、セナが悲鳴を辺りに響かせた。

「……! セナ殿!?」
 セナの悲鳴に、剣心は夷腕坊を見つめていた視線を辺りに移す。
 気付けば志々雄と自分の戦いを見ていた男がいない。

「しまった……!」
 焦燥する剣心は夷腕坊を一瞥する。
 夷腕坊に潰された志々雄はまだ出てくる様子はない。
 この男に背中を見せるのは不安だが、迷っている場合ではない。

 夷腕坊と志々雄を置いて、剣心は駆け出す。
 自分の足でも、悲鳴の聞こえた場所までおそらく十秒はかかる。

「なんとかそれまで持ちこたえてくれ……!」
 そう呟き、神速の剣客は駆けだした。


 1――――――。

「走れッ。ファッキンチビッ!!」
 それは積み重ねた反復練習の賜物か。
 蛭魔の激に、セナの体が弾けるように反応する。

 2――――――。
 
 光速の足が0から1へとシフトする。
 まさに爆足。
 一瞬でその体は攻撃範囲から安全圏へと離脱する。
 確実な死を持ったはずの更木の腕が空を切った。

 3――――――。

「へぇ……」
 それを見つめ、予想以上の回避能力に更木が笑みをこぼす。

 4――――――。

「面白れえぇ―――ッ!」
 叫びと共に更木が駆ける。
 その殺気は先ほどの比ではなく。
 その速度は先ほどの比ではない。

 5――――――。

「ひっ……!!」
 一瞬でセナの目の前に更木の巨体が現れる。
 殺気に飲まれたセナの体は動かず、反応しようもない。
 蛭魔は咄嗟に、足元に転がる拳程の大きさの石を拾い上げた。

 6――――――。

 その命を刈り取らんと、死神の腕が奔る。
 同時に眼帯を付けた死角方のこめかみに僅かな衝撃。
 蛭魔の投げた石が命中したのだ。
 更木にとってその程度の攻撃はダメージにもなりはしない。
 だが、攻撃はコンマ1秒、到着を遅れる。

 7――――――。

 再度、豪快な音を立て更木の攻撃が空を切る。
 何のことは無い。セナが腰を抜かしその場にへたり込んだのだ。
 偶然にも、それにより死を持った攻撃は紙一重で空を切った。
 もっとも、コンマの遅れがなければ、その紙一重もなかっただろうが。
 そんなことはお構いなしに、死神は止まらない。
 腕を唸らせ、へたり込むセナの頭部へと目掛け追撃の一撃を振り下ろす。

 8――――――。

「グァア……ッ!!」
「ヒル魔さん!!」
 セナの頭を砕くはずだった一撃は、蛭魔の右肩を砕いた。
 蛭魔が咄嗟にセナと更木の間に飛び込んだのだ。
 妖計の策士は、単純にセナと自分の肩を天秤にかけただけの話。
 クォーターバックの命でもある肩と後輩の命じゃあ、まあ、しかたあるまい。
 だが、それ以上の策はなく、手詰まりだ。
 あとは、もう―――

 9――――――。

「終わりだ」
 死神は僅かに笑い。
 倒れこむ二人に、容赦なくトドメの一撃を繰り出した。

 豪腕が唸る。

 10―――――。

 その腕を、

「龍槌―――」
 上空から振り下ろされた刀の鞘が弾き飛ばした。

「―――翔閃!」
 着地も待たず、跳ね上がるように鞘が跳ぶ。
 その一撃は顎を掠め、脳を揺らされた更木の巨体が僅かに後退する。

 剣心は着地し、更木と倒れこむセナと蛭魔を遮る位置に体を移し、更木を睨みつけた。
 体勢を立て直した更木はそれを見つめ。

「オメエは、志々雄の獲物だがよ……」
 打たれた顎をさすり、歩を進める。

「そっちから手出してきたんじゃしかたねぇよなぁ」
 そう言って。実に楽しそうに死神は笑いを溢した。

 ほんのお遊びだったが、大物が釣れた。
 こうなれば、雑魚なんかには興味は無い。
 更木は倒れこむ二人には目もくれず、一歩前に進み、獣のような構えを取る。
 それに対峙し、剣心は鞘を正眼に構える。

 一方は刀の鞘。
 一方は特殊空拳。
 互いにおよそ剣客といえぬ獲物を構え、紛う事無き剣気を放つ。
 剣気はぶつかり合い空気を揺らす。
 舞い上がった木の葉は剣気に耐えられず弾け飛ぶ。
 永遠のような対峙は一瞬。先に動いたのは剣心だった。

 神速の踏み込みにて神速の一撃を放つ。
 その目にも止まらぬ一撃を悠々と死神は素手で受けとめ。
「オラッ!」
 逆の手で眼球を抉らんと指を突き出した。
 咄嗟に剣心は首を反らし、指は頬を掠めるに止まる。
「龍巣閃―――!」
 一撃では足りぬと。剣心は絡むような乱撃を放つ。
 多段に放たれる剣撃。
 捌ききれず、その幾発が更木の体に叩き込まれる。
「軽ぃんだよ!」
 だが、それも更木を包む剣気を前に通らない。

 連撃では軽すぎる。
 しかし、一撃では防がれる。
 鞘しかないこの状況では抜刀術も不可能。
 決め手が無いのだ。
 それは更木も同じこと。
 素早く動くこの相手に、素手では決め手に欠ける。

 刃無き剣客の戦いは続く。
 互いに決め手を欠き、その均衡を破れない。
 だが徐々にその均衡は崩れ始めていた。

 一方に変化が生じ始めたのだ。

「ハッ、ハッ、ハッ―――!」

 加速する。加速する。

 心臓の鼓動が。
 斬撃の鋭さが。
 ―――この意識が加速する。

「ハァッ、ハァ―――ッ!」

 呼吸が荒い。
 肉体が意識に追いついていない。
 このまま加速し続ければ、追いつけない肉体は崩壊する。

 だというのに、この意識は加速し続ける。
 まだ。
 まだ、あの頃には。
 まだ、あの人斬りにはほど遠いと。
 意識がアクセルを踏み続ける。

 志々雄の放つ人斬りの剣気が螺旋を回す。
 この男の放つ人斬りの殺気が歯車を回す。
 狂々。狂々と。

「ハアァァッ―――!」

 斬撃一閃。
 神速の一撃が更木の防御よりも早く、そのこめかみに叩き込まれる。

「チィ……!」
 頭部にまともに一撃を喰らい、更木は僅かに舌を打つ。

 まだ、早くなるってのか。

 たしかに早かったが、初めは速度も大差はなかったはずだ。
 だが徐々にその速度は早くなり。
 それに伴って技のキレも鋭くなっている。
 その攻撃は、もはや素手での防御が間に合わない域まで至っている。

 だというのに。
 これ以上早くなるってのか?

 これ以上―――

「楽しませてくれるってのかぁ!?」

 叫びを上げ死神が駆ける。
 その動きに合わせるように剣心が一撃を放つ。
 無防備な脳天に一撃が突き刺さる。
 だがその一撃を受けても、死神の動きは止まらない。
 脳への一撃を意に介さず、そのまま肉ごと剣心の胸倉を掴む。
「ぐッ……!」
 剣心が痛みに顔を歪める。
「オラァ―――!!」
 そのまま手首を捻り、投げるように肉を抉り取る。
 鮮血が舞い散る。

「楽しいなぁ! オイ!」
 打たれた額から流れる血を舐め、死神は歓喜に震える。
 体勢を立て直すべく、剣心は滑るように後退し距離をとる。

「―――ハァ―――ハァ」

 足元を見つめる。
 胸元からボタボタと血が落ちた。
 地面に飛び散るその様は咲き乱れる華のようだ。
 痛みと血の匂いに意識が揺れる。

 人斬りと流浪人の螺旋が回る。
 狂々。狂々と。

 動きを縛る痛みが邪魔だ。
 反応の鈍い肉体が邪魔だ。
 意識を止める理性が邪魔だ。

 そうだ、肉体が追いつけないんじゃない。
 理性が意識を押し留めているんだ。
 意識に全て任せればいい。


 ―――この人斬りの意識に。


「ヒル魔さん! 無理しないでください」
「うるせえ! いいからオレの言うとおりにしろ」

 這いずるように安全圏に移動したセナと蛭魔は、戦いを見つめながら虎視眈々と準備をしていた。
 一か八かの最後の策。
 片手の動かぬ蛭魔に代わりに、セナが奇策の用意に勤める。

「出来ました」
 そして、中身の詰まったペットボトルを手渡す。
「……よし」
 手渡されたペットボトルを受け取り、蛭魔はそれを左腕で構えた。
 それだけ動作で、右肩に激痛が走る。

 この投球に失敗は許されない。
 だというのに、条件は最悪。
 利き腕ではない上に右肩の痛みが邪魔だ。

 それでも、こんな状況はいつもと変わらない。

 これまで泥門は栗田以外は素人同然のラインでやってきた。
 何度も潰され、何度も傷を負ってきた。
 利き腕が使えなくなったこともあった。
 怪我で喘いでも投げ続けてきたんだ。
 右肩の怪我がなんだ。

 迷いは一瞬。
 蛭魔は素早く狙いを定め、対峙する剣心と更木に向かいペットボトルを投げつけた。


「剣心さん! それを叩いてその場を離れろ!!」

 横合いから響く蛭魔の声。その声にハッとする。
 懐かしい声に悪い夢から目が覚めた感覚。
 中に舞うペットボトル。
 剣心はそれを視界の端で目視した。
 気付けば目の前には、迫る死神。
 命を刈り取らんと拳を放つ。
 反射的に剣心はその一撃をかわし、その勢いのままその体はコマのように回転する。
 そして、遠心力を利用し放たれた一撃は、ペットボトルを破壊した。

 黄色の粉が中に舞う。

(カリー粉?)

 僅かに香る香辛料の香り。
 それはたしか、セナの支給品、夜営道具の中に含まれていた物だ。

 それに、どういう意図があるのか。
 目くらましにしても弱い。

 訝しみながらも、剣心は蛭魔の言葉通り後退する。

 そこに第二のペットボトルが投げ込まれた。

 開いたペットボトルの口に無造作に詰め込まれたメモ用紙。
 その先を炎が燃やしユラユラと揺れる。
 まるでそれは火炎瓶のようだが、そのペットボトルの中に可燃物は無い。
 そう可燃物は内ではなく―――

 空中に舞う黄金の粉が火を吹いた。
 その火は誘爆に誘爆を重ね、目の前の景色を白く染め上げる。

 ―――粉塵爆発。
 空中に散漫した粉塵が爆発を引き起こす。
 屋外であるため威力は低いが、目くらましには充分。
 爆発は更木を飲み込み、その視界を完全に奪った。

「ざまあ見やがれ! ヒャハッハッ……ッゥ!」
 傷の痛みに顔を歪めながら蛭魔が笑う。
「無理して笑わないでくださいよ。ヒル魔さん!」
 セナはそれを心配するように咎めた。
 そこに、煙の中から爆発を逃れた剣心が駆け現れた。
「け、剣心さん!」
「走れるでござるか? セナ殿」
 現れるや否や、それだけを聞く。
「は、はい。でもヒル魔さんが……」
「では―――御免」
 返答を待たず剣心は蛭魔を担いで走りだした。
 セナも慌てて、そのあとを追って駆け出す。

 神速の剣客と光速のランニングバックは一瞬にしてその場を離れる。
 煙が薄まり、更木の視界が晴れた頃には、その姿は視界から消えていた。


「逃げられたか。っと随分と男前が上がったじゃねえか、更木」
 そんな言葉をはきながら、後方から悠然と志々雄が現れた。
「おいおい、見てたんなら追えよ。追いつけただろ、オメエなら」

 たしかに、手負いとガキ二人。
 全力で追えば追いつけないことも無いだろう、が。

「なに。まあいいじゃねえか。生きてりゃそのうちまた出会うさ」

 抜刀斎との戦闘。夷腕坊からの脱出。
 この体はそろそろ時間切れだ。

「ちッ。気の長げえ野郎だぜ」
「オマエが短すぎるんだよ」

 わざわざ弱みを見せることも無いだろう。
 そのことを更木に言う必要は無い。

「さて、大体このあたりの奴等とは遊びつくしたかね。そろそろ四国か本州にでも渡ろうか」
 あたりを見渡し志々雄が呟く。
「へ。そこでも楽しめりゃいいがな」
 その一言に、志々雄は笑い。
「なぁに、楽しめるさ。存分にな」
 そう答え。二人の人斬りは歩き始めた。





【福岡県/昼】

【緋村剣心@るろうに剣心】
【状態】身体の至る所に軽度の裂傷、胸元に傷、重度の疲労、精神不安定
【装備】刀の鞘
【道具】荷物一式
【思考】1.志々雄たちから離れる
    2.人を斬らない

【小早川瀬那@アイシールド21】
 [状態]:健康
 [装備]:特になし
 [道具]:支給品一式 野営用具一式(支給品に含まれる食糧、2/3消費)
 [思考]:1.志々雄たちから離れる
     2.薫、斎藤、姉崎、進との合流。

【蛭魔妖一@アイシールド21】
 [状態]:右肩骨折、夷腕坊操作の訓練のため疲労
 [装備]:無し
 [道具]:支給品一式
 [思考]:1.志々雄たちから離れる
     2.薫、斎藤、姉崎、進との合流。

【更木剣八@ブリーチ】
 [状態]:全身に軽い火傷、打撲。首筋に中度の裂傷。(簡易止血済み)
 [装備]:無し
 [道具]:荷物一式 サッカーボール@キャプテン翼
 [思考]:1.四国か本州に渡る
     2.志々雄、ヒソカと決着を付ける 
     3.強いヤツと戦う

【志々雄真実@るろうに剣心】
 [状態]:身体の至る所に軽度〜中度の裂傷
 [装備]:ムラサメブレード@バスタード
 [道具]:無し
 [思考]:1.四国か本州に渡る
     2.剣八と決着を付ける
     3.全員殺し生き残る


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