0157:機人流浪
静寂…一面の静寂。
小さな公園の公衆トイレ。
その狭い空間に、微動だにせず固まったままの影一つ。
ただ一つの違和は、狭い空間内に幾度も小さく薄く繰り返し響く異音。
コー…ホー…
コー…ホー…
コー…ホー…
(怖い…怖い…)
(もう18人も死んだ)
(仲間にも裏切られる)
(オレなんかじゃどうにもならない)
(これは試合じゃない…血生臭い戦場だ)
(殺される…虫ケラのように…殺される…)
(怖い…怖い…)
その者の名はウォーズマン。
正義超人と呼ばれてその自信に満ちていたかつての面影の全てを失い、その脆弱な機械人形はひたすらに今の現実に恐怖していた。
場所は名古屋にほど近い公園。
彼はDIOに襲撃されて後、徐々に自らを浸食していく恐怖心に飲み込まれていきながらフラフラと流浪していった。
本来の『弱者を守る』という目的も徐々に忘れ。
東京へ向かうという事も徐々に忘れ。
先程のような人外の化け物に再び出会ってしまわぬような安全な場所を求め。
(殺される…何も出来ずに…殺される…)
(死ぬ…みんな死んじまうんだ…)
(いくらキン肉マンでも…あんな化け物には絶対かなわない…)
(どんな必殺技も無意味だ…四角いリングなんてどこにも無いんだ…)
頭を隠し、丸くなったままひたすら今の現実に怯え続ける。
膝を抱え子供のように小さくなっているその者の胸と膝に挟まれた、彼の支給品である長い筒がその彼の恐怖を映して静かに佇んでいた…。
「……」
「どーした?」
「足跡が…あるわ」
今まで共に早足で進んでいた相方の女性、マァムが突然足を止めて地面に視線を向けているのに気が付いた流川はマァムの方へ振り返りぶっきらぼうに問いかける。
「足跡?新しいのか?」
「…詳しくは分からないわ。うっすらとしか残ってないから、そんなに新しくはないと思うけど」
「……」
「とりあえず、後ろの二人を待ちましょ」
「ああ」
マァムたち二人は後方から徐々に近寄ってくる二人組、リサリサとつかさの方へと視線を向けたままその場にたたずむ。
「どうしたの?何かあった?」
「リサリサさん、これ…」
マァムが指差した先には一人分の足跡。それが真っ直ぐ右前方へと続いている。
「どうします?辿ってみますか?」
「うーん…どうしたものかしら。一人で行動している人物というのはゲームに乗っている可能性も高いと思うから、分の悪い賭けになるかもしれないわね」
「…流川君みたいに楽観主義の人ばかり、ってわけじゃないでしょうしね」
「…うるせー…」
リサリサの後ろから笑顔を流川に向けて茶々を入れるつかさの言葉に少し不機嫌そうに返事を返す流川。
「フフ…そうね、あの時は驚いたわ。『全部夢だと思って二度寝してた』だなんて聞いても、にわかには信じられなかったわ」
「そうそう!あの状況で普通すぐ寝れる?の○太君じゃあるまいし!」
「悪かったな…」
つかさにからかい口調で突っ込まれ、少し気まずげに視線を横に逸らす。
の○太君?と、その例えの言葉の意味がよく理解できないといった顔で二人のやり取りを眺めるマァムとリサリサも、顔を見合わせてクスクスと互いに笑みをこぼしあう。
…余談だが、流川はどこでも3秒で寝れる男である。その例えはあながち間違ってはいなかったり。
「とりあえず…やっと見つけた手掛かりでもあるから、私たち誰かの仲間と合流できる可能性が有る限りは…辿ってみるしかないわね」
「そうですね。でももし…危険な人物だったりした時は?」
「……どちらかの組が接触を試みて、その間もう一組の方が距離を少し置いた場所で隠れたままいつでも奇襲のように援護に飛び出せるように監視…でどう?」
リサリサが三人に向けて落ち着いた声で提案し、三人共首を縦に小さく振る。
「じゃあもし相手が見つかったら私と流川君で接触してみますから、リサリサさんたちは援護をお願いしますね」
「分かったわ。危険を感じたらすぐに逃げるのよ?」
「…はい」
「…流川君?危ない役目を押しつけてしまったみたいで…ごめんなさい」
「……」
足跡を追い始めて数分後、マァムは並んで歩いている流川にすまなさそうに顔を向ける。
「西野さんよりは貴方の方が動けるみたいだし、私とリサリサさんでバディを組んでしまったら…貴方たち二人が危険過ぎるし…それに…」
「別に気にしてねーよ」
ぼそ、と前を向いたままマァムの言葉を遮る。
「あ…うん。…ありがとう…」
流川と出会ってからまだ時間は浅いが、ある程度話をしてみてマァムは妙な信頼と親近感を流川に抱いていた。
(不愛想で、口数も少なくて…でも本当は…とっても優しい心の人。…少し子供みたいな所もあるから、ヒュンケルとポップを足したみたいな人ね)
そんな事を一人考えながら、前を向いて足を進ませつつも薄く微笑む。
「なあ」
「おい」
「おーい」
「…あ、な、何?」
自分を呼ぶ流川の声にようやく気が付き、少し慌てたように顔を上げる。
「足跡、あそこで途切れてる」
「!!」
その言葉を受け、瞬時に真剣な顔つきに変わる。
二人の視線の先には…小さな公衆トイレ。
「……!!?」
ウォーズマンはふと扉の外に人の気配を感じ、バッと顔を上げる。
(だっ、誰だ!!?)
「…中の人!私たちに戦う意思は無いわ!」
(…女?なんだ?よく聞こえないぜ…)
(たたか……し……?)
思わぬ弊害。
今までは特に音や声を聞く機会がなかったために気が付けなったが、ウォーズマンが首に受けた損傷により彼の聴覚に多少の問題が発生していたのだ。
聞いた言葉に小さなノイズが混じってしまう。
(戦い……し……?)
(…戦い…死……!!?)
彼の怯えきった心が全てをネガティブな言葉に変換していく。
「あなたも殺し合いなんて嫌でしょう!?あなたの世界に帰りたいでしょう!!?」
(ころし……たの……い…?)
(…殺しが…楽しい…!!!?)
最悪の脳内変換。
氷の固まりを心臓に押しつけられたかのようなショックに身を震わせ、膝の上に乗る大筒に手を伸ばす…。
「………返事、無いな」
「……」
「…自殺とか…」
「ば、バカな事言わないで…!」
流川の言葉に動揺を隠せず否定の言葉を吐くも、しかし一向に返事も音も帰ってこない事実にその最悪の仮定を心が否定しきれず、ゆっくりとドアに手をかける。
「一、二の、三で…いい?」
「……」
警戒の姿勢を取ったまま無言で頷く流川。
「一、二の…」
息を整え…
「三っ!!!」
バン!と扉を開き、暗い中の様子を覗こうとする。
ブワッ…!
「……なっ!!?」
「何!?これ!!?」
その瞬間、内部から二人に向けて生暖かい風が勢いよく吹き当てられ、思わず顔を手で覆う。
「何…このにおいっ…!?」
「……!?まさか…!!!」
流川が一瞬の判断でマァムを押し飛ばそうと前に出る。
「逃げろ!!ガス…」
…それは、一瞬の出来事であった。
その時マァムには何が起こったのか理解できなかった。
ただ最後に見えたのは、流川の体が自分の前を塞ぎ…まるで皆既日食を見ているかのように流川の体の輪郭がくっきりと真っ青な光で照らし出されていて…少し、綺麗だな…だとか、そんな事を思いながら…
意識はそこで、途絶えた。
「マァムーッッ!!!!流川くぅーーんッッ!!!!」
「イヤアァアアッッ!!!!」
扉の奥から放たれた巨大なガスバーナーの炎のような火柱に包まれた二人を離れた木陰から見ていたリサリサとつかさは悲痛な声を上げ、固まって動けないつかさに構わずリサリサは二人に全力で駆け寄る。
(こんなに…こんな…威力があるなんて……!!?)
トリガーに指が掛かったままであるウォーズマンは、呆然としていた。
扉の先に転がる…黒く炭化した固まりを凝視する。
(死…ん…?……オレ……オレが……殺……?)
突然の事だった。
外にいるのはゲームに乗った奴だと考え、この武器で威嚇をしながら逃げるつもりだった。
しかし…心の準備が出来ていないまま突然扉が勢いよく開き突然の音に頭がパニックになってしまい、思わず攻撃してしまったのだ。
(こんな…説明書きには……こんなに…威力が…あるなん…て…!?こんなに……!!!?う…あ…?)
「ウゥオあアあァアぁあアァーーーッッッッ!!!!!!」
絶望と悲壮のこもった半狂乱な叫び声を上げながら外に飛び出し、凄まじい勢いでリサリサとは真逆の方向へ走り去る。
「……!!!」
リサリサはその男に思わず身構え足を止めるが、走り去る後ろ姿を追うよりも…まず優先すべきは二人の安否確認であると自分に言い聞かせてマァムたちの元へ駆け寄る。
「……そん…な!!?」
その場に倒れていたのは、全身至る所に火傷を負ったマァムの姿と…
真っ黒く、見るも無惨に焼け焦げた…流川の姿であった。
【愛知県、春日井にある小さな公園/午前】
【マァム@ダイの大冒険】
[状態]:全身各所に火傷・気絶
[装備]アバンのしるし@ダイの大冒険
[道具]荷物一式
[思考]1:気絶中
2:名古屋へ向かう
3:協力者との合流(ダイ・ポップを優先)
【リサリサ@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]健康
[装備]三味線糸
[道具]荷物一式
[思考]1:事態の把握
2:名古屋へ向かう
3:協力者との合流
【西野つかさ@いちご100%】
[状態]:ショック状態
:移動による疲労
[装備]天候棒(クリマタクト)@ワンピース
[道具]荷物一式
[思考]1:ショック状態
2:名古屋へ向かう
3:協力者との合流(真中・東城・北大路を優先)
【ウォーズマン@キン肉マン】
[状態]極度のパニック状態
[装備]燃焼砲(バーンバズーカ)@ワンピース
[道具]無し(荷物一式はトイレ内に放置)
[思考]極度のパニック状態
※流川の荷物一式(支給品不明)は死体横に放置
【流川楓@スラムダンク 死亡確認】
【残り104人】
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