0092:決意
星空の下、一人の少年が一心に拳を振るっていた。
北九州の市街地、ビルの屋上で拳を振るう少年の名は若島津健。
サッカーのユニフォームから覗く彼の肌は上気し、湯気が立っている。
小一時間ほど仮想の敵を相手に突きや蹴りの練習をしていた若島津は、大きく息を吐いて腰を下ろした。
空を仰ぐと、既に星が見えなくなり始めている。
「そろそろ夜明けか」
そう呟き、水を一口飲んだ。
「…キャプテンや翼たちはどうしてるだろう」
若島津が飛ばされたのは、今いるビルのロビーだった。
しばらくロビーを調べたが、めぼしい物は何もない。
1階から順番に調べていき屋上まで調べたが結果は同じ。
恐らくどの建物もそうなのだろうと判断して物資の調達を諦めた。
そこで空手の鍛錬を始めたというわけだ。
もちろん若島津はこんなゲームに乗るつもりはない。
ただ、鍛錬を怠りたくなかっただけである。
「(さて…これからどうするかな)」
武器はベアークローが一組。
空手を使う若島津にはそこそこ扱いやすい武器だろうが、火力不足でもある。
銃火器を持った相手に襲われた場合、真っ向から相手をするのは難しいだろう。
若島津は荷物をまとめながら、試しにベアークローをつけてみた。
そして、何度か正拳突きをしてみる。
「(…あまり違和感は無いな。これならなんとか戦えそうだ)」
その時、階下へと通じるドアが開いた。
そして一人の青年が、なにやら呟きながら入ってきた。
青年の手には、明らかに銃と思われるものが握られている。
「…そうとも、僕は絶対に優勝してみるさ…いつも迷惑をかけてくれる先輩だってこの手で…」
どうやら、まだこちらには気づいていないようだ。
若島津は相手を刺激しないように、相手は年上らしいので丁寧に声をかけた…のだが。
「すいません、そこの人」
「…ッ! …なんだ、子供か。子供なら何の問題もなく倒せ……」
青年はまたしてもブツブツ呟いていたが、その視線が若島津の手で止まった。
正確には、ベアークローで。
若島津もそれに気づき、慌ててベアークローを外そうとするが上手くいかない。
「ま、待ってください。俺は別に…くそっ外れない…」
「そんな凶器をつけて…警官である僕を襲うつもりだったのか!まったく最近の子供は……親のしつけが……足りないんじゃないですかね…!」
青年はゆらりと銃を持ち上げると、銃を構える。実に見事な構えだ。
だが、そんなものに見惚れている余裕は無い。
危険を感じた若島津が横っ飛びにその場から離れると同時に、一瞬前まで若島津がいた場所を弾丸が突き抜けていった。
「ちょっと待ってください!俺は戦うつもりは…!」
「外しただって!?この僕が!…まぁ、こんなゲームは初めてだから手元が狂ったのさ。次はきっと…」
もはや青年は(初めからかもしれないが)若島津の話を聞いていない。
若島津は貯水タンク(ちなみに空だ)の陰に隠れ、ライフルの照準から逃れる。
「(クソ…どうする。あの男は完全にゲームに乗ってやがる!しかもあの堂に入った構え…銃の扱いに慣れてるのかもしれない)」
荷物は青年のすぐ側にある。
取り返すには、青年があの場から動かなければならない。
「(これを使って誘い出すか…)」
若島津はさらに貯水タンクの後ろに回って左手のベアクローを外すと、元いた方へそれを投げた。
と同時に、反対側から飛び出す。
ベアクローの立てた音に注意が向いてくれれば、隙を突いて荷物を奪い、逃げられると読んでの行動だ。
しかし――
「残念でした!先輩だってそんな手には引っかかりませんよ!ましてこの僕はね…」
狙いを定められてしまう若島津。
「さぁ…僕が優勝するための礎になってもらいますよ……」
「(こうなったら…!)」
青年の指が引き金にかかるのを見て、若島津は一か八かの賭けに出た。
「きええええええっ!!」
『出たっ!若島津くんの三角飛び〜〜〜!!』
若島津は貯水タンク目掛けてジャンプする。
意表を突かれた青年は急いで狙いを定めようとするが、狙撃用のライフルでは近距離の素早く動く相手を正確に狙うのは難しかった。
さらに貯水タンクを蹴り、青年の方へ高く舞い上がる若島津。
青年の撃った弾丸は若島津の腕をかすめて闇の中へ消えて行く。
若島津はそのまま青年へ飛び掛り、顔面目掛けて右手で突きを繰り出した。しかし、
「(…っ!)」
手にはベアークローがついている。
若島津は、このまま殴れば殺してしまうと無意識に判断して突きをそらした。
結果、ベアークローは青年の左肩をえぐるにとどまった。
「うあぁぁぁぁああっ!!か、肩がぁっ!」
青年はその場に倒れこみ、左肩を押さえて呻いている。
「(何を外しているんだ…向こうは俺を殺そうとしてるんだぞ!)」
トドメを刺すべきか迷う若島津。
しかし、肩を押さえて転がっている(今は)無抵抗な青年を一方的に攻撃するのはためらわれた。
「…こ、この僕に怪我を負わせて……ぐぅっ…ただの子供が…」
青年は呻きながらもスナイパーライフルに手を伸ばす。
「(クソッ、もう起き上がるぞ。早くトドメを…いや、だが……)」
今まで『人を殺す』ことを想定していなかったため、急には決心ができない。
迷っている間に、青年はスナイパーライフルを掴み、身を起こしつつある。
若島津は仕方なく、荷物を拾うと階下へと通じるドアを開けて、階段を駆け下りて行った。
市街地の外の森まで一気に駆け抜け、ようやく足を止める。
「次は…誰かの命を奪おうとするヤツには躊躇せず拳を打ち込む!…打ち込んでみせる!」
決意と共に空を見上げると、空はだいぶ明るみを増していた。
【福岡県(森)/早朝】
【若島津健@キャプテン翼】
[状態]:健康
[装備]:ベアークロー(片方)@キン肉マン
[道具]:荷物一式
[思考]:1.中国地方へ移動 2.日向や翼、石崎と合流
[備考]:(自分や他人を守るためなら)人を殺す覚悟はできた
【福岡県(市街地・ビルの屋上)/早朝】
【中川圭一@こち亀】
[状態]:左肩を負傷 精神不安定
[装備]:スナイパーライフル(残弾18発)
[道具]:荷物一式
[思考]:1.怪我が痛い 2.優勝する
[ベアークロー(片方)はビルの屋上に放置。中川は、何かが落ちていることには気づいています。
福岡の市街地に銃声が2発響きました]
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