0071:暴走列島@一時休憩
影は薄く時刻は5:15を指す。
山陽自動車道。山口県下関市から兵庫県神戸市を結ぶ高速道路
通称、山陽道。越前と新八は10分ほどかかって次のサービスエリアに差し掛かる。
広い敷地内は公園となっており中心の小高い丘に
いくつかの商店が固まっている。
無人の静けさが物悲しい。
越前はウェイバーを徐々に失速させ後ろの新八に到着したことを告げる。
ウェイバーの牽引力は弱く時間がかかることを予想していたが目的地は思っていたよりずっと近く
にあった。
ロープでウェイバーと繋がれた自転車は新八を乗せたままパタンと倒れた。
芝生がクッションになったらしくたいした音はしなかったが新八は起き上がらない。
さては打ち所が悪かったなと越前が近づく。新八の顔はドドメ色に変わり口から泡を吹いていた。
あーあ。越前はゲームが始まってから何度ついたかわからないため息をもういちど大きくついて
しゃがみ、新八を背負った。自転車で車酔いか。無理させすぎた。
レストラン店内は閑散として薄暗く人の気配はない。開けっ放しの扉をくぐる。
越前は一番奥のイスに新八を座らせた。土気色の顔は表情がない。額に手を当ててみる。
ぬるり、と汗がつく。体温は高いくせに汗は水のように冷たい。新しい汗が出ていないのだ。
やばい――。
「脱水かな」
絶えず汗を流すスポーツ選手にその恐ろしさはよく知られている。体内の水分が極端に不足すると
血液の循環が悪くなり頭痛、めまい、吐き気、酷くなれば意識障害を引き起こし
放っておけば生命に関わる。夏場は特に注意しなければならない。
越前は慌ててデイパックの中のペットボトルを取り出すと新八の口にあてた。
意識があるのか、ないのか。新八は少しづつ水を吸い始める。
自分で飲み込めるなら比較的症状は軽い。
見た目より丈夫で強運な男だ。
重症であっても病院に連れて行くことなどできないのだから。
この時代錯誤な衣装のメガネの青年は一体何時間走ってきたのだろう。年齢は乾先輩と同じか上だろうに
あまり落ち着きはなさそうだ。人前で当たり前のように泣いたり叫んだり落ちこんだり。語りだしたり。
ゲームに対する恐怖や不安が彼をハイにさせるのか。
それともこれは彼が元々住んでいた世界のカラーなのか。
見つかるかどうかもわからない仲間を追ってペダルを漕ぎ続け
結局、倒れてしまったけど――
こんな人間も混ざっている。そのことが少なからず越前を安堵させていた。
ペットボトルの水が半分をきった。これだけ飲ませておけば後は勝手に回復するだろう。
越前は新八を床に寝かせキッチンに入った。業務用の巨大な冷蔵庫やダンボールが積んである。
なるべく期待せずに冷蔵庫のドアを開けると予想通り何も入っていなかった。
「ちぇっ、ここもか」
ゲーム開始から数軒の建物を物色してきたが、これまで食料の類は全く見つかっていない。
最初は先に侵入した誰かに持っていかれたのだと思い警戒を強めながら家屋を選んだが
どこも同じ。偶然にしては続きすぎだ。これもルールの一つなのか。
デイパックに入れてある食料は2日分。切り詰めても4日と持たないだろう。
殺されるか餓死か。棚、ダンボールを調べる。割り箸の束にコップ。包装されたプラスチック製の
フォークにスプーン。ボール。役に立ちそうにないものばかり。自衛に使えそうな道具もなさそうだ。
せめて水は欲しかった。ウェイバーがいつ止まるかわからないからだ。あんな燃料口もエンジンも
搭載されていない自動二輪は始めて見た。少なくとも日本やアメリカには存在しない乗り物だ。
ここに先輩の乾がいたなら大喜びでデータをとって分解し動力の秘密をつきとめようとするだろうが
自転車にしか乗ったことのない越前は故障や燃料切れで停止してもどうすることもできないのだ。
いくら縮小された日本とはいえ東京までの道のりを何十kmも歩くのは並大抵の事ではない。
毎日の過酷なトレーニングをこなしてきた自分にはスタミナにかなりの自信がある。
しかしそれは水や栄養の充分な補給があってこその体力だ。限られた食料と水をもたせることが
生き残るために相当のプレッシャーになるだろう。
――竜崎。
越前の記憶の中で三つ編みが揺れる。困った顔で彼女はこっちを見た。
どうしていつも誰かに絡まれてんのかな。
見つかれば殺されないまでも食料は確実に奪われる。
早く合流できればいい。自分でなくとも乾か跡部、新八のような人間と。
越前は次に自転車とウェイバーを店内に隠した。
新八は店外からは死角になっていて見えない場所にいたが用心のため
キッチンまで移動させておく。当分目は覚まさないだろう。
越前はガラス扉を閉め外を歩き出した。
新八、早く起きるネ!
もう朝ョ!この駄メガネ!
「・・・・わ、わかったよ・・・い、今起きるよ起きるって」
神楽のケリが飛んでくる。
夜更かしばっかりしてると銀ちゃんみたいなロクデナシになるョ。
二日酔いで尿から糖がでる駄目なおとなネ!
神楽は新八をグルグル振り回す。
やめてやめてバターになっちゃう。新八は神楽のビンタを右手で受けた。
痛い
痛いよ
駄目だよ神楽ちゃん。そんな乱暴な起こし方しちゃあ。
新八が叫ぶ。思ったより自分の声は響かない。
「・・・・・・・・」
見覚えのない天井に新八はうろたえる。神楽にビンタ、否、転んで骨折した右手指の痛みが
疲弊した全身に伝わった。・・・ここは?新八は恐る恐る辺りの様子を窺う。
越前のウェイバーに引きづられて振り落とされないように自転車にしがみついて・・・
それから――。記憶は飛んでいた。自分は途中で気絶したのか。この場所まで越前が運んでくれたのだろうか。
なんてことだ。自分も疲れているだろうに。床はひやりと冷たく新八はくしゃみをした。
身体を引きずって入り口を出ると
朝陽がガラス越しに薄暗いレストランの内部を照らしていた。
新八は改めて店内を見回す。どこにでもあるような安っぽい内装。
奥のトイレの横に自転車とウェイバーが並びそれぞれにデイパックが備え付けられている。
5組の白いテーブル。そのひとつに水の入ったペットボトルが無造作に置かれている。
正面ガラスに人影。新八は悲鳴を上げた。
「もう起きたんスか。寝てていいっスよ」
「えじ、越前くん・・・・」
「毛布を探したんだけどどこにもなかったっス。物探しは期待しない方がいいや」
越前はイスにどかりと腰をおろした。
「僕は何時間くらい寝てたんだろ」
「さあ、2、30分くらいじゃないスか?」
もっと寝ていたのかと思った。疲れがそのまま残っていて身体がとても重い。
神楽に急かされて起きてしまったことに新八は苦笑した。早く迎えに来いと夢に現れたんだろうな。
「とにかくもう少し休んでてくださいよ。相当疲れがたまってるみたいだし。
メシ食ったら寝ちゃってください。アンタ、脱水起こして死ぬトコだったんすよ」
原因の半分は乗り物酔いだけどね。ボソッと越前が呟く。
「し、死ぬぅ?僕が?まさか!」
「走るときは、こまめに水をとってください。常識だよ」
乾先輩の受け売りだ。彼ほどの薀蓄を語る知識はない。
「し、死ぬわけにはいかないけど眠れるかな・・・。なんだか起きたら・・・
目が冴えちゃって身体はだるいんだけど横になっちゃ悪いような気がするんだ。
まだ誰も見つけてないのにさ」
頭を抱えて新八が唸る。
「横になればそのうち眠くなって夢の中っスよ」
「寝てる場合じゃないんだ・・・。早く見つけてあげないと」
神経の昂ぶりが新八の声を震わせた。青白く疲弊した顔。頬の傷が生々しい。
そのくせ、死人のようだった目は精気を取り戻している。
危険信号だ――。高揚して自分の体力の消耗を感じなくなっている。
いま休息させなければすぐにまた倒れるだろう。
「アンタの仲間って、そんなに急いで見つけないといけないほど弱いんスか?
どっかに隠れて飯でも食ってますよ。
俺は何時間もあの車で走ってやっとアンタを見つけたんだ。
他の奴らが何を支給されたか知らないけど日本中バラバラに飛ばされて
こんな短時間にヤバい奴に出会う確率なんてそうそう無いっスよ。心配しすぎっス」
「それはそうだけど、でも、なんか嫌な予感がするんだ。
こんな状況で混乱してるせいもあるかもしれないけど、心配でたまらない」
なおも食い下がる新八に越前はため息をついた。。
乾先輩がいればもっと上手く説得してくれるか手製の不味い野菜汁で失神させてくれるのにな。
せめてあと2時間は休ませたい。とりあえず喋るだけ喋らせて疲れて気を失うのを待とう。
越前はそう考える。嫌な予感。会えない相手のことを心配したってしょうがないじゃないか。
こんな馬鹿なゲームで死ぬわけがない。そうだろ?越前は思考を打ち切って新八の震える声を聞いた。
「だから、僕はなんとかして皆を・・・」
まもなくゲームの開始から6時間が経とうとしていた。
【兵庫県(1日目) 山陽自動車道のサービスエリア/早朝】
【志村新八@銀球】
[状態]:中度の疲労。全身所々に擦過傷。特に右腕が酷く、人差し指、中指、薬指が骨折。
精神に多少の消耗、高揚あり。
[装備]:なし
[道具]:荷物一式 両さんの自転車@こち亀
[思考]:1.休憩したいがとても休める心境ではない。
2.かぶき町(東京)を目指す。
3.一刻も早く仲間と合流する。
【越前リョ―マ@テニスの王子様】
[状態]:心身ともに健康。
[装備]:なし
[道具]:荷物一式 (半日分の水を消費)サービスエリアで失敬した小物(手ぬぐい、マキ○ン、古いロープ
爪きり、ペンケース、ペンライト、変なTシャツ)ウェイバー@ワンピース
[思考]:1.なんとかして新八を休ませる。
2.情報を集めながらとりあえず地元である東京へ向かう。
3.仲間との合流。
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