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0048:魔力尽きる街



マーン=シヘッド大陸において、ダーク・シュナイダーはかつてない窮地に立たされていた。
優勢だったはずの獣王バッハとの戦いに破れ、その臓腑のほとんどを喰らい尽くされる屈辱。
虫ケラ同然の弱さを持つ少女に救われたダーク・シュナイダーは、傷の治療に長い時を有した。
霊体が記憶している肉体構造をなぞり魔力を持って血肉を再生するなど、彼にとって造作もない事。
しかし地を這うナメクジのごとき遅々とした再生速度の中、ダーク・シュナイダーは死の淵に立っていた。
マーン=シヘッド大陸は本来大気中にあるはずの精霊力や魔素が非常に薄く、
ダーク・シュナイダーが本気で戦えば数分と持たず枯渇してしまう。
そうなれば当然身体の回復のための魔力も尽き、ダーク・シュナイダーは常人のように死んでしまうだろう。

酷似している。そう、100年ほど前に訪れたマーン=シヘッド大陸とここは非常に酷似している。
何らかの制限を受けて己の全力が出せないのもそうだが、この世界の精霊力や魔素は非常に希薄なのだ。
頭と心臓さえ無事なら難なく肉体再生をするダーク・シュナイダーでも、
こんな所で臓器の半分くらいを引きずり出されたら死んでしまうだろう。
もっともそれには魔力が尽きていたらという前提があるが。
故にダーク・シュナイダーは魔力を節約しようと心掛けていた。
大気中の魔素を使い果たしたならば、ダーク・シュナイダーは体内にある魔力を消費して魔法を使わねばならないからだ。

(ダメージを負った時、肉体の再生に魔力を回す事を考えると出来るだけ精霊魔術で戦った方がいいな)
周囲の精霊力や魔素を練り上げながら、ダーク・シュナイダーは獲物の隠れているビルを睨みつけた。
堂々と、己の身体を晒したまま。
冴羽の持っているハーディスの放つ小さな弾丸など、頭や心臓にでも当たらない限りたいしたダメージにはならない。
せめてショットガンやバズーカーなどなら胴体に当たっても肉を破り臓器を破壊し戦闘不能まで追い詰める事も可能なのだが、
冴羽は相手が魔法を使えるだけの人間だと思っている。
ビルの陰から一瞬身体を出した冴羽は、ダーク・シュナイダー目掛けて引き金を引き絞った。
しかし距離があり的も小さい事から、例え射撃が正確でもダーク・シュナイダーは少し身体を動かすだけで弾を避ける事が出来た。
普段ならあんな小さな鉛弾を食らっても針に刺された程度だが、今はそれなりにダメージを受けるかもしれない。
「ククク、そう簡単に食らっちゃやんねーぞ。だがお前はいとも簡単に俺様の魔法を食らって死ぬのだー! インテリペリ!!」
ダーク・シュナイダーが振り払った手から無数の小火球がビルを襲い、いくつかの火球がビルの隙間に入った。
慌てて奥に逃げ込む冴羽を追って、ダーク・シュナイダーもビルの隙間へと駆ける。
たいして威力の無い火球だったゆえ、まだ爆炎が残っているにも関わらずダーク・シュナイダーはかまわず進もうとした。
しかし予想外に熱かったため、魔法障壁を張って炎を突っ切る。
(クソッ、余計な魔法を使っちまったぜ。あと2〜3発も魔法を使えばこの辺の魔素は尽きちまうんじゃねぇか?
 だとしたら、とてもじゃねぇがエグ・ゾーダスやメガデスなんて使えねぇ。禁呪なんてもっての他だ)
舌打ちをしながらダーク・シュナイダーは冴羽を追った。
冴羽はビルの隙間にあった大きなゴミ箱の脇に身を屈め、銃でこちらを狙っている。
「光弾よ 敵を撃て(タイ・ト・ロー)!」
上等だと微笑を浮かべながら、ダーク・シュナイダーは詠唱を始めた。
その隙に放たれたハーディスの弾丸を、ダーク・シュナイダーの左腕で受けた。
常人離れした筋肉により弾丸は腕の半分ほどまでえぐった時点で止まる。
(イッテェッ!? 畜生ッ、こんな鼻クソみてぇな攻撃でこれほどダメージを受けるのか!?)
ふつふつと沸き上がる怒りで苦痛を押さえつけ、ダーク・シュナイダーは力強く叫んだ。
「アンセムッ!!」
目標を追尾し必ず命中する光弾がダーク・シュナイダーの手から放たれる。
ゴミ箱の陰に隠れた冴羽だが、光弾はゴミ箱の上を通り過ぎると方向を変え、改めて冴羽に向かって飛来する。
「嘘だろ!?」
咄嗟に横っ飛びに避けるも、狭い路地だったためすぐ壁に背がついてしまった。
これ以上避けきれないと踏んだ冴羽はハーディスを前に突き出して、さらに方向転換をした光弾を銃身で受ける。
冴羽は知らない事だが、ハーディスはオリハルコンという特殊な金属で作られており、
銃は傷ひとつ負う事無く魔法の光弾を受け止めた。
といってもその衝撃までは受け切れず、手首に鈍い衝撃が走った。どうやら間接を痛めたらしい。
それは十分なダメージではあったものの、ダーク・シュナイダーは冴羽がまだ生きている事に苛立つ。
壁に叩きつけられた衝撃で背骨が砕け散ってもいいはずなのに、地面に倒れた冴羽はまだ致命傷を負っていない。
(チッ、威力も落ちてやがるのか?)
ダーク・シュナイダーは痛めた左腕に魔力を傷口に集めた。
常人では考えられぬほどのスピードで細胞分裂が始まり、傷口が閉じていく……はずだった。
(チッ、再生速度が遅ぇ。これじゃ完治すんのに数十分はかかるんじゃねぇか?)
苛立ちながらダーク・シュナイダーは獲物を睨みつける。
冴羽は手が痺れて銃が一時的に撃てない状況に陥っていたため、慌てて路地裏から出ようと走り出す。
(逃がすかよっ!)
残忍な笑みを浮かべながらダーク・シュナイダーは魔力を集めた。
「ダムド!」
高位の魔法使いだけが使える爆裂魔法により、冴羽の前で爆発が起こる。
本来なら一軒家くらい余裕で破壊する威力なのだが、ここではビルの壁の表面を破壊する程度だった。
それでも重い爆音は空気を裂き近隣の県まで響く。
爆煙が晴れると、冴羽は足に爆発を受けて動けなくなっていた。
周囲の精霊力ではなく、己自身が持つ魔力を傷口に回しながらダーク・シュナイダーはゆっくりと近づく。
これ以上ダメージを食らうのはゴメンだ。今度弾を撃ってきたら全部避けた方がいい。
腕なら構造の複雑な臓器より再生は容易だ。それでも憎らしい事に相応の魔力は消耗するだろうが。
芋虫のように地を這って逃げようとする冴羽は、ダーク・シュナイダーの接近を察知すると、慌てて銃を構えた。
しかし指を動かそうと思っても、手首の痺れはまだ残っていた。引き金を引く事など出来はしない。

「ちっ……畜生……」
「ハハハハハハッ! この超絶美形ダーク・シュナイダー様に傷を負わせた事は褒めてやるぜ」

残忍な笑みを浮かべながらダーク・シュナイダー手を伸ばし、冴羽の銃を掴んだ。
腕がズキズキと痛むが、ダーク・シュナイダーにとって痛みなど行動の妨げにならない。
痛みがもたらすのは恐怖ではなく怒り。
しかしその半面でダーク・シュナイダーは冷静な分析をしていた。
ハーディスのような通常サイズの拳銃が放つ弾丸でこれほど痛むのなら、もっと威力の高い銃なら致命傷を負いかねない。
現代科学に関する知識はそう多くないが、インテリペリのように無数の弾を放つ銃が存在する可能性は考える事が出来た。
それでも普通の人間相手なら、この銃は非常に有利な武器となる。
ダーク・シュナイダーは面倒くさそうに冴羽からハーディスを取り上げて懐にしまった。
この銃を使えば魔力の節約になるだろう。
圧倒的な力を持つが故に世界がそれについていけず全力を出せないとは、皮肉な話だ。
こんな馬鹿げた所に放り込んだ主催者達に対し怒りが沸き上がる。
「ククク。奴ら、必ず俺様の手でぶっ殺してやる」
超絶美形ダーク・シュナイダー様に不可能は無い。
まずはこの世界にいる男共を皆殺しにし、女を全員ハーレムに加えてこのゲームを抜け出してやる。
さらに己の身にかけられた制約を解除して全力を出せるようにしてやるのだ。
その後主催者の糞野郎共を皆殺しにして悠々と元の世界に帰る。ハーレムを連れて。
「おい人間、俺様に傷を負わせた褒美に派手に死なせてやるぜ。ドラシュ・ガン!!!!」
ダーク・シュナイダーが叫んだ瞬間、周囲に残っていた精霊力のすべてが冴羽の下に集束した。
地面が盛り上がり冴羽の腹部を貫いて瓦礫を押しのけ天に向かって屹立する。
「ぐはっ!?」
成人男性の身長ほど盛り上がった地面は細長い円錐状の形をしており、冴羽の身体はくの字に折れていた。
「ゲラゲラゲラ! モズのはやにえみてぇで似合ってるぞ!」
「ぐっ……畜生ォ……! ……かお……り…………」
最期に女の名を呟き、冴羽は力尽きた。隆起した岩の槍に血がしたたる。
「カオリ? こいつの女の名前か? 安心しろ、そいつも俺様のハーレムに加えてやるぜ」

ダーク・シュナイダーはモズのはやにえから残りの弾丸を、鞄からは食料を回収すると、
すでに息絶えた男に背を向けて歩き出し、街の角を適当に曲がりながら当てもなく進む。
数分もする頃には腕の出血は止まっていたが、穴はまだ空いたままだった。力を込めればまた出血を始めてしまうだろう。
(たったあれっぽっちの魔法と、たったこれっぽっちの傷の出血を止める程度でこの辺の魔素が枯渇しちまったか)
体内に魔力は残っているものの、敵との戦闘を続けていてはすぐ尽きてしまう。
残りの魔力すべてを回復に当てるなど自殺行為も同然。それに仮に魔力をすべて使っても全快するかどうかは分からない。
周囲の魔素は恐らく一日以上立たないと元通りにはなるまい。いや、もっと時間がかかる可能性もある。
ここではもう精霊魔術を使うのは至難だろう。
だからダーク・シュナイダーは移動する。東京都から離れれば、そこにはまだ使われていない精霊力や魔素があるのだから。





 【東京都、歌舞伎町/黎明】

 【ダーク・シュナイダー名@バスタード】
 [状態]:左腕に銃創。魔力消耗。
 [装備]:装飾銃ハーディス(ブラックキャット)
 [道具]:荷物一式(食料×2 支給品不明)
 [思考]:1 とりあえず東京から出て魔力を回復する。
     2 男に会ったら殺す、女に会ったらハーレムに加える。アビゲイルとガラは手下にするつもり。
     3 ゲームの脱出方法を調べるつもりだが、男と協力する気はさらさら無い。
     4 参加している女を全員自分のハーレムに加えてゲームを脱出し主催者を皆殺しにする。


 【冴羽遼 死亡確認】
 【残り119人】


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